最近、よく巷で「グローバル社会」という言葉を耳にする。辞書で「グローバル」という言葉の意味を調べてみると「地球全体の、世界的な」とある。とすると、「グローバル社会」とは、「地球規模でとらえる社会」という意味になるのだろうか。

たしかに、技術の進歩により、以前とは比較にならないスピードで、人やモノが世界中を移動できるようになった。その結果、遠くの地域の人々と隣人のように接することができるようになったのは事実。しかし、その一方で、世界のあらゆる場所に存在している差別や偏見、経済的・教育的な格差は、今もまだなくなってはいない。物理的距離は縮まっても、人の心の中にある距離は、相変わらず離れたままだ。

グローバル社会を迎えた今、日本もまた、この潮流のなかでなんらかの役割を果たしていかなければならない。そこで文部科学省は、「我が国の高等教育の国際競争力の向上を目的に、海外の卓越した大学との連携や大学改革により徹底した国際化を進める、世界レベルの教育研究を行うトップ大学や国際化を牽引するグローバル大学に対し、制度改革と組み合わせ重点支援を行う」(日本学術振興会「スーパーグローバル大学創成支援」より)とし、大学教育の改革支援を進めている。

大学に与えられた使命は、このようなグローバル社会を牽引し、地球的規模の諸課題に取り組むリーダーや専門家を育成・輩出すること。しかし、グローバル社会の課題を解決し、将来の世界をよりよく変えていくために、社会貢献意識の高い優秀な人材を育成・輩出するには、そのための「仕組み」が必要だ。現在、数々の大学が、暗中模索しながら、その仕組み作りに取り組んでいる。

その中で、グローバル教育の推進に関して一歩進んだ取り組みを実施している大学が、上智大学である。
 

上智大学のキャンパスはグローバル社会の縮図

 上智大学は、1913年に首都・東京に設立された大学だ。しかし、その起源は16世紀までさかのぼる。1549年に来日した聖フランシスコ・ザビエルは、日本人の知性や旺盛な好奇心に感銘を受け、この国にも世界に開かれた大学を設立する夢を抱いた。それを具現化したのが、上智大学である。

1949年創設の国際部において、すでに全カリキュラムを英語で提供していた同校は、大学におけるグローバル教育のパイオニアとして知られ、帰国子女や外国人学生、インターナショナル・スクールの卒業生など、国内外を問わず世界中から学生が集まってくるようになった。グローバルキャンパスが形成され、グローバル社会の縮図を体験できる大学になったことも、むしろ当然の流れと言えるだろう。グローバル社会を牽引するリーダーや専門家を輩出する素地は、歴史の中で培われていた。

また同校は、交換留学協定校及び学術交流協定校が230校を超え、国連開発計画(UNDP)、アフリカ開発銀行(AfDB)や国際協力機構(JICA)をはじめとする12の国際機関及び国際協力系機関とも連携。さらに、ボルボ・グループなどのグローバル企業におけるインターンシップ(就業体験)も実現している。このような、国際機関やグローバル企業との包括的な教育連携は、一朝一夕に構築できるものではない。グローバル教育のパイオニアだからこそ、長い時間をかけて培うことができたのである。

「上智大学であれば、学生自身の志向やレベルに応じた留学先を見つけることができるほか、現在実施されている国際協力やグローバルビジネスなども体験できる。国内にいてはわかりづらい複雑なグローバル社会の現状や課題などを肌で感じることができるはず」と、グローバル教育センター長の廣里恭史氏は言う。

上智大学 グローバル教育センター長
総合グローバル学部 教授 廣里 恭史 氏

 

人間性と倫理性に裏打ちされた能力を育成するための
各種プログラム

 さらに「Men and Woman for Others, with Others」(他者のために、他者とともに)という言葉に集約される同校の教育精神は、グローバル社会で求められるマインドでもある。この教育精神は、同校の使命だけではなく、各種教育プログラムにも生きている。だからこそ、他校よりも進んだグローバル教育に関する取り組みを実施できているのだろう。

その具体例が「グローバル・コンピテンシー・プログラム」。幅広い人間性と高い倫理性に裏打ちされた能力を身につけるために必要な教養と技能を体得するための、実践的・実務的な仕掛けだ。

具体的な内容は、(1)将来、国際機関や国際協力系機関でのキャリアを目指す学生に、幅広い視野と実践に必要な基礎知識、技能や経験を身につける機会を提供する「国際協力プログラム」、(2)グローバルビジネスの現状に触れ、社会に貢献してゆくための基礎能力を養い、経済・経営の諸理論・コンセプトを身につける機会を提供する「グローバル・ビジネスプログラム」、(3)メディア・コミュニケーションの理論と実践を理解し、的確に発信できる人材の育成を目指し、国際社会に寄与することの意義を考える機会を提供する「グローバル・メディアプログラム」、(4)自分たちのアクションが与える影響を理解し、ボランティアやサービスラーニングなどを通じて市民活動を学び問題解決の糸口を見いだしていく機会を提供する「グローバル・アクションプログラム」——である。

上智大生による国連ユースボランティアの様子


このプログラムを提供しているのは、グローバル教養教育の体系化を図る全学的な組織として設置された「グローバル教育センター」だ。

「地球規模の諸課題に取り組むための、決まった道は用意されていない。当センターは、グローバル教養教育の体系化を図るだけでは十分ではなく、学生が卒業後に世界を舞台に活躍できる道筋も考えていかなければならない。だからこそ、高い倫理性に裏打ちされた総合的な人間力を培い、自ら道を切り開く必要がある。様々なプログラムでは、その道筋の方向性が示唆されている」と廣里氏は言う。

学生たちは、これらのプログラムを履修することによって、さまざまな知識を蓄え、多くのことを体験していくことになる。将来的には、国際機関、国際協力系機関やグローバル企業、市民活動での活躍の糧になるのは間違いない。

上智大学で学んだ学生は「他者のために、他者とともに」という教育精神を体現しつつ、世界の舞台へと足を進めていくのだ。近い将来、卒業生の中から、グローバル社会を牽引しつつ、地球的規模の諸課題に取り組むリーダーや専門家が出てくることを期待したい。
 

<取材後記>

 廣里氏は、世界銀行を皮切りに、チュラロンコーン大学、名古屋大学大学院、アジア開発銀行などで25年間勤務し、教育・研究と実務の双方に携わってきた、いわば元祖グローバル人材ともいうべき人物。同氏は、上智大学出身である。

上智大学の学部・大学院(博士前期課程)を経てアメリカに留学し博士号を取得する中で、「海外からアジアを俯瞰してみることができた」(廣里氏)。外国の地にいながら、「アジアのために、アジアとともに」生きることを決めたという。その後は、アジアに軸足を置き、人生を歩んできた。

開発銀行業務や大学での教育・研究活動を通じて、多くの国々から高い評価を得、ベトナムとラオスから勲章を授与され、カンボジアでも高等教育に関する政府特別顧問を務める廣里氏。同氏のような人物が数多く輩出される将来に、大きく期待したい。
 

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