屋久島に生息するヤクシカ。棘の多いホウロクイチゴの葉を平気で食べている(筆者撮影、以下同)

 天然スギが優先する屋久島の原生林は、世界でも屋久島にしかない美しい森である。その屋久島で、増えすぎたヤクシカの食害により、希少植物や、地表近くに生える林床植物が失われている。

 ヤクシカは、もともと屋久島に棲んでいた動物なので、捕獲しなくても、いずれヤクシカと屋久島の森のバランスが回復するのではないかという見方がある。しかし、ヤクシカが屋久島に生育するようになったのは、人間の移住とほぼ同時期であり、その当時から人間によって狩られていた可能性が高い。屋久島だけでなく、日本各地のシカの個体数を抑えてきたのは、オオカミよりもむしろ人間だったようだ。屋久島を題材にして、獣害問題について考えてみよう。

屋久島の森は世界に誇れる自然遺産

 まず、屋久島の森が世界的に素晴らしい森である4つの理由を紹介しよう。

 第1に、私たちにとっては見慣れたスギ林自体が、世界的に見て極めて貴重な森なのだ。スギ科スギ属に属する植物は世界で2種しかない。日本固有種のスギCryptomeria japonicaと、中国浙江省天目山に自生するC. fortuneiの2種だ。いずれも巨木に成長し、景観的にすばらしい森林を形成するが、大規模な原生林が残されているのは、今や屋久島だけである。