ロシアへの経済制裁がもたらすEUのエネルギー危機

米国がロシアに譲歩、EUは梯子を外される形に

2015.05.22(金) 藤 和彦
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 まず第1に挙げられるのは、ロシアがウクライナを迂回するためブルガリアを通って欧州に天然ガスを輸送するために計画していた「サウスストリーム」の挫折である。

 2014年末、プーチン大統領はEUの反対を理由にサウスストリーム計画を撤回し、ロシア制裁に加わっていないトルコを経由するパイプラインで中東欧にガスを運ぶ構想(「トルコストリーム」)を発表した。

 その後、EUは態度を一変させて、ロシアに対しサウスストリームの建設を要請したが、ロシアはこれを聞き入れず、プーチン大統領はギリシャに対してトルコストリームへの参加を打診するなどの外交活動を展開した。今月に入り、ガスプロム(ロシアの半国営による天然ガス生産企業)はトルコストリームの建設に着手(完成は2019年の予定)したが、トルコストリームで輸送される天然ガスの最終的な仕向地が欧州になるとは限らない。

 さらに深刻な問題がある。4月22日、EUの欧州委員会は、ロシア産天然ガスに大きく依存する中東欧諸国の天然ガス市場で「ガスプロムが独占的な地位を乱用して競争を妨げた」との判断を示し、EU競争法(独占禁止法)違反の疑いがあると警告した。EUは、ガスプロムがブルガリアの天然ガス購入者にサウスストリームの建設への参加を強制したことも競争法違反に当たるとした。

 本件は2012年から調査が進められていたが、エネルギー専門家の間では「この問題は中東欧諸国の輸送インフラ不足が主原因であり、EU側が独占禁止法違反と認定するのは無理がある」との見方が強かった。欧州委員会から、独占禁止法違反を是正する手続きの第1段階である異議通知書を送られたガスプロムは、直ちに反論する構えである。しかし、最終的に違反だと判断されれば、巨額の制裁金の支払いを命じられることになる(同社の利益に10%相当の数千億円)。2014年決算が前年比86%減益となったガスプロムにとっては「泣き面に蜂」であり、欧州へ天然ガスを輸出する意欲が大いに削がれることだろう。

 EUがロシアへのエネルギー依存から脱却するために最も期待しているのはカスピ海に面した国、トルクメニスタンである。EUは、トルクメニスタンの天然ガスをイランを経由して欧州に供給する「南回廊パイプライン」を計画している。だが、トルクメニスタンの天然ガスは中国へ大量に輸出されることが決まっており、当分の間はロシアからの天然ガスの代替先にならないだろう。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

エネルギー戦略

20世紀の社会を築き、支えてきた石油。しかし世界的な環境意識の高まりの中で、石油依存社会の限界が明らかになりつつある。石油はいまどうなっているのか。石油社会の次を築き、新世紀を切り開くイノベーションは何か。その最先端の姿をリポートする。

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