野生動物は獲物を捕まえる時、全力疾走する。獲物の側だって全力で逃げようとする。生死がかかっているんだから、全力なのは当然だ。

 だが、今の世の中は、全力で生きなくても何とかなってしまう。

 これは一見、ユートピアのように見えなくもないが、実は不幸なことなんだよ。

 福祉が充実すればするほど自殺者は増えるらしい。食べ物の心配をしなくて生きていけるのはアフリカ辺りで人類が誕生してから300万年以上の歴史の中で、ごく最近の数十年くらいのものだ。昔の人からすれば、まさに天国のような状況のはずだよね。

 ところが、世界で最も豊かな国の1つである日本は、世界で7番目の自殺大国らしい。なぜだと思う?

メリハリのない人生が楽しいか?

 人間は目標がなくなるとダメになる生き物だからだと、おれは思うんだよね。生物のほとんどが生殖能力がなくなると寿命になるように、人間は夢がなくなるとダメになるんだな、きっと。

 もし、何もせずに食べていけるのなら最初は快適かもしれない。でも、しばらくすると退屈になり、やがて「おれって夢がないよな」って気づいて、「何のために生きてるんだろうか」って思うようになるはずだ。

 夢は実現すると、もうそれは夢ではなくなってしまう。目標に到達したり、夢を実現したりする度に、目標とか夢がなくなってしまうんだな。これは、嬉しい反面、哀しいことだとおれは思うよ。

 旅行前に計画を練ったり、車を買う時にカタログを眺めたりして、夢を追っかけているうちが、一番楽しいんだよ。

 たまにアメリカの大金持ちが突然自殺したりする。理解し難いかもしれないけど、成功者に特有の虚しい心理が積み重なった結果じゃないかって想像してるんだ。

 人間は安定した単調な毎日を送っていても満足できない。必要なのは、いかに生きるかっていう「ドラマ」だと、おれは思うんだ。

 最近の若者の多くは、ウチにこもってばかりで外に出ないっていうよね。学校の生徒はゲームとかの仮想世界に没頭して、会社では新入社員の半分以上が海外勤務を嫌がってるっていうじゃないか。素晴らしい可能性があるにもかかわらず、持てる力を発揮することなく引っ込んでいるのは、もったいない話だね。

 何もしない、決まったことしかしない、というのは一番ラクな生き方のようだが、メリハリのない人生なんて楽しいはずがないよな。

失うものがないやつが強いんだ

 人には思ったことを引き寄せる力がある。度胸と行動力があれば、何でもできるものだ。

 例えば、渡世人ってのはたいがい別嬪(べっぴん)を連れて歩いている。なぜだか分かるかい?