本記事は3月19日付フィスコ企業調査レポート(エイアンドティー)を転載したものです。
執筆 客員アナリスト 柄澤 邦光

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15年12月期も売上高、利益は過去最高を更新する計画

 エイアンドティー<6722>は、2015年2月9日に2014年12月期の決算(非連結)を発表した。売上高、営業利益、経常利益が順調に拡大し、いずれも過去最高を更新した。血液検査に必要な機器・システムと試薬というニッチで参入障壁が高い市場で確固たる地位を築いている事業の安定性を裏付ける結果となった。

 この決算を受け、同社は成長戦略の策定と実行に本腰を入れる。まず、2015年12月期は「成長のための足場を固める」ための年度とする(三坂成隆(みさかしげたか)代表取締役社長)。2015年12月期は売上高、利益ともに過去最高を更新する計画で、新製品の投入や研究開発費の増額などの積極的な戦略も打ち出している。しかし、同時に組織や人事制度の整備と既存技術の洗い出しなどを行い、今後の成長戦略をじっくりと練る年度にも位置付ける。そしてそれをもとに、年度内に5ヶ年計画を策定し発表する予定で検討を開始している。

 この5ヶ年計画は、急激な成長を求めず、持続可能で着実な成長を達成する内容となる見通しである。同社は「高い品質の維持」を事業運営上、最重要と位置付けており、足元においても「品質保証の強化」を掲げている。この事業運営方針を堅持するためにも、成長は持続可能で着実であることが基本になる。ただ、市場が期待する「売上高100億円、経常利益10億円」の達成を通過点として位置付け、この通過点から後の成長戦略に重点を置く。

 さらに、計画では、株主重視の姿勢も示す方向で検討が進んでいる。同社の株式は、既に複数の機関投資家が長期の目的で保有しており、取材対応の件数も増えている。そこで、配当性向やROEの目標値設定も検討しているという。同社は、堅実経営に加え、医療関係というセクターであり、市場の注目度が益々高まっている。株価動向には目が離せないと言えそうである。

Check Point

●技術面で高い参入障壁、すべての製品系列で安定した成績を確保
●2015年12月期は販管費増も過去最高業績の更新を見込む
●5ヶ年計画は売上高100億円、経常利益10%を超えた後に重点

2014年12月期決算

血液検査に必要なあらゆる製品を開発・製造販売

 同社は、血液検査に必要なあらゆる製品を開発・製造販売している。そのため、単一のセグメントとなっているが、商品は以下の4つの系列に分かれている。(1)「臨床検査機器システム」。これは血液検査を行う「検体検査装置」、検査で得られたデータをまとめ、管理し、分析しやすくするITシステム「臨床検査情報システム」、検査で使う複数の装置をベルトラインでつなげ、自動的に検査作業を行う「検体検査自動化システム」を一括りにした系列となる。(2)検査の際に使用する「臨床検査試薬」。(3)センサーや電極など検査装置の「消耗品」。(4)最後は「その他」。様々な機器を組み合わせてシステム化した場合に、他社製品を組み込むことがあるが、「その他」はその場合の他社製品の売上分となる。なお、検体検査機器、試薬、消耗品は創業当時からのビジネスであり、臨床検査情報システムと検定検査自動化システムは新規事業として後に事業化された。同社の事業を理解するために、以後はこれら製品系列別に分析を行う。

技術面で高い参入障壁、すべての製品系列で安定した成績を確保

(1)概要

 業績の具体的な説明に入る前に同社の特長を簡単に触れる。これを把握しておけば、業績や将来の見通しの分析がしやすくなるからである。

 同社は医薬品と医療機器をすべて合わせた市場(約39兆円)のうちの血液検査という分野に絞って事業を展開している。足元では、同社の売上は約93%が国内であり、非常に安定した収益を確保できるビジネスモデルとなっている。その主な理由は以下のとおりである。

 第1に市場規模が小さく、新規の参入余地が極めて狭い。血液検査機器システムは約4,500億円程度で、非常にニッチな市場である。また、新規事業に位置付けられる臨床検査情報システムも市場規模も150億円、検体検査自動化システムも35〜40億円の市場規模しかない。さらに、これら市場は人口減少でそれほど成長率が高くない半面、高齢化に伴い急激な縮小も起こらない。

 第2に特殊な技術が必要であり、技術面での参入障壁も高い。一方、同社は親会社のトクヤマ<4043>から受け継いだセンサーで他社に特に秀でた技術を持つ。製品も付加価値の高い高機能品が中心で、その面でも差別化ができている。業界に必要不可欠な会社と言える。第3に参入障壁が高い市場で秀でた技術力を持っているため、ライバル他社との提携による製品の相互供給も行える。そのうち、ライバルからの製品調達は利益を出しにくいという問題はあるものの、OEMは大きな収益源となっており、ライバルを通じても収益を伸ばせる立場にある。第4に機器やシステムを納入すれば、試薬や消耗品の販売、メンテナンスサービスといったビジネスが継続して収益貢献する。加えて、システムや機器の更新の際も継続して受注できる可能性が高い。

 以上の特長を踏まえたうえで、業績を見てみる。2014年12月期決算(非連結)は、売上高が2013年12月期比3.8%増の9,569百万円、営業利益が同15.3%増の856百万円、経常利益が同16.1%増の832百万円、当期純利益が同3.3%減の455百万円となった。売上高は6期連続、営業・経常利益は過去最高を更新した。これは、同社の安定したビジネスモデルを象徴するような業績と評価できよう。