戦死し無言で故郷に帰還したアメリカ海兵隊員の葬列(写真:米海兵隊)

 第87回アカデミー賞6部門にノミネートされ、作品賞や主演男優賞などは逃したものの音響編集賞を受賞した「アメリカン・スナイパー」(クリント・イーストウッド監督)が日本で上映中である。アメリカでは戦争映画に分類される作品の中でも最も高い興行成績(3月1日までで興行収入4億7020万ドル)を収めている。日本でも観客動員数は好調とのことである。

「アメリカン・スナイパー」が提示する軍事社会学的諸問題

 この映画がアメリカで好評を博しているのは、何もアメリカ軍最強のスナイパー(イラク戦争でアメリカ海兵隊と行動を共にしたアメリカ海軍特殊部隊狙撃手クリス・カイル上級兵曹長:4度にわたってイラクの戦場に赴き、帰還後、自らも患い回復したPTSDに悩む帰還兵をサポートする軍事会社を立ち上げ活動を開始したが、サポートしていたPTSDの元海兵隊員に射殺されてしまった)が残虐な敵テロリストを倒していく姿を、現在進行中の対ISIL(いわゆるイスラム国)との戦いにオーバーラップさせているから、という単純な“愛国的”理由からではない。

 戦場で実際に戦闘に加わる主人公に代表せられている兵士たち、そしてその家族が直面する様々な軍事社会学的諸問題を考えさせる内容になっているからである。

 ただし、それら諸問題のすべてが直接描かれているわけではなく、示唆される形で散りばめられているため、問題点それ自体を認識できるかどうかは自分自身の体験や家族それに友人などの経験などを共有しているかどうかにかかっている。したがって、この映画から引き出せる軍事社会学的問題というのは、見る人ごとに多種多様ということができよう。