フランス全体を恐怖に陥れた1月のテロ事件から1カ月余。現在も依然としてテロの可能性は高いままである。一方でこの事件はフランスが解決しなければならない多数の課題をあらわにした。

 本稿の前篇では、フランスで再び提起されたイスラム教とユダヤ教の対立を取り上げたが、一連のイスラム過激派テロ事件では「イマーム」についても焦点が当てられた。モスクで説教をするイマームはイスラム教において重要なポジションである。

イスラム教指導者「イマーム」の問題

シャルリ・エブド襲撃事件で殺害された風刺画家ベルナール・ベルラック氏の棺 ©AFP/BERTRAND GUAY [AFPBB News]

 しかしフランスのイマーム自体の教育・指導にはまだまだ足りない部分があるとされ、これから力を入れるべき問題となっている。

 たとえば、フランスのモスクで説教をするイマームの中には、アラブ語しか話さない者がいるという。そのため、こうしたモスクに来る人の中で、アラブ語ができない人は、“自称イマーム”1とされる人物に話を聞くことになる場合がある。

 これらの“自称イマーム”は、イスラム教をきちんと学んだわけでもなく、過激な思考に偏っている者も多いと言われ、彼らを介してサラフィー・ジハード主義が広まっていったとする見方もある。

 また、刑務所におけるイスラム過激化防止対策は早急に対処するべき課題の一つとなっている。実際、今回のテロ事件の容疑者であるシェリフ・クアシやアメディ・クリバリは刑務所で服役していた際に過激化しており、刑務所でのイマームの不足などが指摘されている。

 フランスには200ほどの刑務所があり、各刑務所にはオモニエ(aumônier:教誨師)2がいるが、なかでもイマームの数が特に少ないとされる。

 あるイマームによると 、2000年頃から、フランスの刑務所において最も信仰・実践されている宗教がイスラム教になったと言う3。しかし、カトリックのオモニエが約700人存在するのに対してイスラム教のオモニエは182人しかいない。

1 シャルリ・エブド事件では、以前の記事「パリのテロ容疑者は仏メディアに何を語ったか」の中で述べたファリッド・ベンイェトゥは“自称イマーム”であり、容疑者シェリフ・クアシのメンター的存在であった。

2 各受刑者が精神的支えとなる信仰のためにオモニエの話を聞いたりする。カトリック、プロテスタント、ギリシャ正教、イスラム、ユダヤなど各宗教のオモニエがいる。

3 参考:「Aumônier musulman, je visite les prisons depuis 15 ans : la situation est inquiétante」(Le Plus de L'OBS)