──頑張ることが成果に結びつかなくなってきた。

太田 むしろ頑張りが仕事の質を下げることもあります。モチベーション理論の研究者として名高いV.H.ブルームは、「高すぎるモチベーションは業績を低下させる」と指摘しています。その大きな理由は、モチベーションが高すぎると、目標の達成に役立つものにしか目を向けなくなるからです。

 頑張っていると、ほかの大事なことが見えなくなったり、あるいはもっと違う方向にいけばうまくいくかもしれないのに、そういう選択肢も見えなくなってしまう。結局は仕事の質を低下させることにつながります。また、上司があまりにも頑張りすぎると、部下がやる気をなくすという弊害もあります。

態度や意欲を評価してきた日本の会社

──日本では、会社が頑張る人を評価してきたというのはありますよね。

太田肇(おおた・はじめ)氏 1954年兵庫県生まれ。同志社大学政策学部教授。神戸大学大学院経営学研究科修了。経済学博士。滋賀大学助教授などを経て現職。『個人尊重の組織論』『承認欲求』『公務員革命』など著書多数

太田 私は、そこにいちばん問題があると思っています。日本の会社の人事考課は、業績や能力と並んで情意面、つまり態度や意欲を評価する傾向が強い。これが日本の会社で頑張り主義が蔓延した大きな理由だと思います。

 頑張ること自体を評価していると、社員は成果を出すことよりも頑張る姿勢を見せることのほうに関心が移ってしまう。頑張るということが自己目的化してしまうんですね。これは本末転倒だと思います。

──なぜ日本の会社は情意考課を行ってきたのでしょうか。

太田 1つには、個人の仕事の分担がはっきりしていないことが挙げられます。そのため成果やアウトプットで評価としても、はっきり見えない。そこでやむをえず態度や意欲、頑張りを評価しようとしたというわけです。