太田肇氏(以下、敬称略) ある経営者からこんな話を聞きました。新卒や中途入社の採用面接をすると、やる気と熱意を売り物にする社員が多い。けれども実際に採用してみると期待したほど力がなかったりトラブルを起こしたりする。熱意を買って採用するとろくなことにならない──というのです。

 別の会社でも「熱血社員を幹部に登用したら失敗した」という話を聞いたことがあります。確かに、毎日、長時間働いて頑張っているのになかなか結果を出せないという人は多い。なかには頑張りすぎてメンタルを患ってしまう人もいます。

 世界的に見て日本人の労働時間は依然として長い状況にあります。労働者の有休取得率は50%を切っているし、サービス残業も続いている。みんな頑張っているわけです。ところが、かつてはトップクラスだった日本の労働生産性は1990年代終わり頃急降下しています。国際競争力も大幅に低下している。

 このような状況を照らし合わせて考えられるのは、これまでのように「ひたすら頑張ると成果が出る」という時代は終わったのではないかということです。仕事に求められるものが変わってきたのではないか。そう感じたのが、本書を執筆したきっかけです。

──その変化はどうして起きたのでしょうか。

太田 大きな要因として挙げられるのが90年代のIT化の進展です。今さら何を言っているのかと思われるかもしれませんが、IT化の進展は仕事に求められる能力や働き方を確実に変えました。現在は肉体労働や事務作業だけでなく、「多くの知識を持つ、記憶する、正解を導き出す」といった仕事もコンピュータに取ってかわられつつあります。さらには人口知能の研究、開発も進み、適用領域を広げようとしています。

 では、コンピュータが取って代わることのできない人間特有の能力とは何か。それは独創性、創造性、革新性、カンやひらめきといった能力です。これらは、時間をかけて頑張れば出てくるというものではありません。かつては完璧を目指して頑張ることが成果につながっていました。そこで求められていたのは努力の「量」です。しかし、創造も革新も、長時間働いたからといって生まれてはこない。そこで求められているのは努力の方向を探すことです。つまり努力の「質」が求められているのです。