昆虫はアミノ酸の供給源

 動物というと、大型の哺乳類を連想しがちだが、昆虫も動物。貴重な動物性タンパク源の1つだ。

 世界の人口が増加するなかで、かねてから昆虫は新たなタンパク質源として注目されている。FAO報告書によると、生の状態100グラムあたりのタンパク質の含有量は、牛が19~26グラムであるのに対し、バッタは35~48グラムと牛を上回っている。

生の状態での100グラムあたりのタンパク質含量
(参考:FAO「Edible insects: future prospects for food and feed security」をもとに筆者作成)

 また昆虫は、タンパク質のもととなるアミノ酸の供給源でもある。人の体内では作り出すことのできない必須アミノ酸のうち、穀物で不足しがちなリジンやトリプトファンを補うことができるからだ。なかでもリジンは、米、小麦、トウモロコシのいずれからも摂取しづらいため、リンジンの不足は、栄養不良を招く一因となる。成長障害や、重篤な場合は生命に影響を及ぼすことがあり、食料の量・種類が限られる途上国では深刻な課題だ。

 さらに、多くの昆虫は、カルシウム、鉄分、亜鉛といったミネラルや、脂質を豊富に含んでいる。例えば、トノサマバッタなどのバッタ科の昆虫は、100グラムあたり8~20ミリグラムで牛の6ミリグラムを上回る鉄分を含有している。バッタがレバーと並ぶ鉄分補給食になるかもしれない。

『虫を食べる人びと』(平凡社)のなかで、著者の三橋淳氏は「虫の体には人が必要とする栄養のほとんどがあるといってよい」と述べている。戦中や飢饉など食料難のとき、命をつなぐ貴重な食料となることは容易に想像がつく。

 2013年に発表されたFAO報告書では、昆虫の食料・飼料としての役割が強調されている。ここでは、大規模な養殖業、加工産業へと発展させることで、雇用の創出、現金収入をもたらすことが期待されている。

 産業化する上でも、昆虫には大きな利点がある。まずは、低コストであること。家畜に比べ、省スペースで済み、さらに変温動物である昆虫は、体温を保つためのエネルギーを必要としないため、エサが少なくて済む。そして、CO2等の温室効果ガスの放出量が牛などの家畜よりも抑えられることも、持続可能性の高い産業の1つとして、FAOが推進する根拠となっている。