前回(「過激なイスラム主義とどう対峙すべきか? パリ、ロンドン、カイロで示された処方箋」)はフランスのテロ事件そのものから少し離れて、「過激なイスラム主義とどう対峙すべきか」という問題に関して、その戦略と戦術をよく考えている人々の言説を取り上げたが、本稿では現場により近づいて考えてみたい。

 前回は、遠くの森を見たとするならば、今回は、木々を近くでつぶさに眺めることにするわけだ。森を見てから、木々を見つめること。世界を真に理解したいと考える者は、決してその逆をしてはならない。そして、肝に命じる必要がある。木々のみを見つめがちな専門家は大きな絵を提示することはできないし、森を遠くから眺めるだけで大言壮語する戦略家もまた必ず間違うのだ。

 本稿では、第1に、フランス社会における急速なイスラム主義化とフランス社会の格差問題の相関と、第2に、「イスラム国」と「アルカーイダ」の2つの過激なイスラム主義組織が織りなす相克の2つのイシューを分析してみたい。

 なぜなら、今回のフランスでの一連のテロ事件に見られたとおり、この2つの大きな問題の潮流が交わった時に、無辜の人々が死ぬことになるからだ。

社会から排除される“ZUS”の人々

 今回のフランスでの一連のテロ事件において、とりわけマリ系フランス人であるアメディ・クリバリが起こしたテロ事件がパリ東部のヴァンセンヌの森の近くであったことや、アルジェリア系フランス人のシェリフ・クアシとサイード・クアシの2人の兄弟が居住したのが、移民が多いパリ19区であり、彼らがその最後を迎えたのも結局パリ北東部の印刷工場であったことは、フランス社会の抱える格差問題をはからずも象徴することとなった。

 フランス国内の格差を顕著に示している地域がある。それは“ZUS”と公的に呼ばれている都市の郊外に多く拡がる地域なのだ。

 フランスでは特に国や自治体が積極的な介入を必要とする地域を1996年に“ZUS”(Zones Urbaines Sensibles=敏感な問題を抱える都市圏)と指定し、様々な施策を行ってきた。同時に、全国で約470万人が住むZUSは、事実上、貧困率と失業率が高く、移民や外国人が多い地域として、フランスで言う“exclusion sociale”(社会的排除)の対象ともなってきた。