(2015年1月22日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 自動車相乗りサービスを展開するフランスのブラブラカー。昨年6月に欧州全土に事業を拡大するために1億ドル調達したこのベンチャー企業の創業者、ニコラ・ブリュッソン氏は、ミュンヘンで開催されたDLD技術会議で一番大きな笑いを取った。

 28通りの法律と規制がある「単一市場」で事業を展開することについて問われた時、彼はこう答えた。「フランスから始めたら、すべてのことがシンプルに思えますよ」

 DLDは、世界経済フォーラム(WEF)に参加するためにダボスへ向かう前に、米国と欧州のハイテク起業家とベンチャーキャピタリストが集い、業界について話し合う場だ。彼らはミュンヘンで、2つの大陸の対比についてじっくり考える。リスクテーキング対セーフティーネット、自由市場対規制、スタートアップ対既存企業といった対比だ。

 だが、今年の会議で際立ったことは、この対比がもはや最大の争点ではないように感じたことだ。主たる問題は、欧州が態勢を整えてシリコンバレーに挑めるかどうか、ではなく、どこに住み、どこで働いていようと関係なく、技術の進歩が我々全員を飲み込んでしまうかどうか、だったのだ。

戦闘的なウーバー創業者の変節が物語る変化

 タクシー配車サービス、ウーバーの戦闘的な創業者、トラビス・カラニック氏がこの変化を具現化していた。彼はミュンヘンに来て、穏和なスピーチをした。かつてバラク・オバマ大統領の選挙対策本部でストラテジストとして働き、現在、ウーバーの戦略を率いるデビッド・プロフ氏が慎重に練り上げたスピーチだ。ウーバーの新しい宣伝文句は、対立ではなく協調がすべてだった。

 ウーバーは雇用を創出し、地域の税収を増やし、自動車を所有する必要から市民を守り、炭素排出を減らすことが同時にできるというカラニック氏の主張は、欧州の都市だけに向けたものではなかった。同氏は全世界の聴衆に、ウーバーのプラットフォームが進歩だということを納得させなければならないのだ。

 ウーバーの問題は、世界経済が直面するより大きな問題の一端だ。

 いよいよ多くの人が、企業ではなく仮想プラットフォームで働くようになっている。仕事は競売方式で大勢の個人事業主に発注される。平均賃金が低迷する一方で資本収益が高まっている。医師と弁護士の職務の一部は遠からず、機械によって行われるかもしれない――。果たしてこれが我々の望む世界なのだろうか?