(2015年1月21日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 欧州の中央銀行界では、今は非常に興味深い時期だ。スイス国立銀行(SNB、中央銀行)は1月15日、これまで成功していた対ユーロのペッグ制を突然終了させた。また、今週は欧州中央銀行(ECB)が量的緩和(QE)プログラムを発表すると見られている。SNBは、ECBが逃れたいと思っているデフレのリスクを受け入れた格好だ。

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SNBの決断はECBのマリオ・ドラギ総裁にとって好都合かもしれない〔AFPBB News

 SNBがこの決断を下したのは、少なくとも部分的には、ECBのQEプログラムに巻き込まれるのを嫌ったためだ。ECBのマリオ・ドラギ総裁にしてみれば、SNBの決断はむしろ好都合だ。ユーロが安くなるからだ。

 しかし、欧州北部の国々に住む多くの人々にとっては痛みをもたらすものになる。彼らは強い通貨を持つことの楽しさ(そして痛み)をもう享受できないことを思い出すことになるだろう。

 スイスは、スイスフランをユーロに連動させるのを簡単にやめることができるが、ドイツはユーロに縛り付けられている。

 SNBの意外な決定は混乱をもたらした。スイスフランは1月20日までに、最大の貿易相手の通貨であるユーロに対して18%も高くなった。コア・インフレ率がゼロ%に近いスイスがデフレに陥ることは避けられないように見える。景気後退も不可避だろう。

スイスが上限設定措置を撤廃した理由

 あのうらやましいほどの安定性をもたらしていた政策をなぜ打ち切るのか。明らかにこれは、対ユーロのペッグ制を維持すると高率のインフレになる(特にQEプログラムが始まった後はそうなる)、そしてペッグ制をやめるのが遅くなればなるほど外貨建て資産に発生する損失が大きくなる、という2つの懸念をSNBが抱いたためだ。

 だが、シティグループのチーフエコノミスト、ウィレム・ブイター氏が論じているように、どちらの懸念にも説得力はない。まず、通貨を自ら発行している中央銀行は、その通貨の価値を永遠に抑制することができる。

 SNBのバランスシートは国内総生産(GDP)の約85%に相当し、すでにかなり大きいことは確かだ。だが、その規模はもう安定したし、ブイター氏が指摘するように、「中央銀行のバランスシートの規模には、絶対額でも対GDPの比率でも、理論上の上限は存在しない」のだ。