本記事は動画もあわせてご覧ください。

 低燃費タイヤがいかに「あり得ない」ことを実現している製品か、みなさんは知っているだろうか。

 2014年12月にトヨタ自動車が発売した燃料電池車「MIRAI(ミライ)」には、ブリヂストンが専用開発した低燃費タイヤ「ECOPIA(エコピア) EP133」が装着されている。マスコミはこぞってミライの革新性、先端性を報じたが、タイヤが脚光を浴びることはほとんどなかった。しかし低燃費タイヤは、ミライに負けず劣らず高度な先端技術の融合体だと言っても過言ではない。

 低燃費タイヤとは文字通り、それを履くことで燃費を向上させられるタイヤだ。通常のタイヤよりもよく「転がる」ので、燃料を節約できる。しかし、最近の低燃費タイヤの性能はそれだけではない。よく「止まる」のだ。

 その先鞭をつけたのが、ブリヂストンが2012年に発売した「ECOPIA EP001S (イーピーゼロゼロワンエス)」だった。

 自動車業界では、日本自動車タイヤ協会(JATMA)が策定した基準に沿って「タイヤラベリング制度」を設け、低燃費タイヤの性能を評価している。この制度では、転がりやすさが「AAA」「AA」「A」「B」「C」の5段階に、ウェットグリップ性能(ウェット路面での止まりやすさ)が「a」「b」「c」「d」の4段階に分けられている。「ECOPIA EP001S」は業界で初めて「AAA-a」(クワトロエー)という最高グレードを達成した。

(注:タイヤラベリング制度では、転がりやすさを「転がり抵抗係数(RRC)」で区分し、ウェットグリップ性能については基準タイヤよりもどれだけ上回っているかで区分している。)

2012年8月に発売した「ECOPIA EP001S」

 その後、各社がブリヂストンの後を追って「AAA-a」グレードの低燃費タイヤを開発した。現在、「AAA-a」グレードのタイヤは決して珍しいものではない。しかし、2012年当時、「ECOPIA EP001S」の登場は業界に衝撃を与えるものだった。

 1つの物体が「よく転がり、よく止まる」という背反する特性を持つ。これはよく考えてみれば物理的にあり得ないことである。一体、どうしてそんなことが実現できるのか。東京都小平市にあるブリヂストン技術センターを訪れ、PSタイヤ開発第5部の永井秀課長に話を聞いた。永井さんはいろいろな材料、技術を組み合わせて最終的な製品にまとめ上げる、低燃費タイヤの開発統括者である。

 以下では、永井さんへのインタビューの模様をお届けする。根掘り葉掘り聞いたので長いインタビューになってしまったが、ぜひ最後までお読みいただきたい。永井さんの言葉の一つひとつから日本のものづくりの底力を感じてもらえるはずだ。