本記事はLongine(ロンジン)発行の2014年10月23日付アナリストレポートを転載したものです。
執筆 泉田 良輔
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Longine(ロンジン)編集部より

 今回は、フィデリティ投信で長期に渡りファンドマネージャーとして株式運用業務に携わってきた山下裕士相談役へのインタビューです。山下相談役は、大学卒業後、昭和35(1960年)年に大阪屋証券(現岩井コスモ証券)に入社。証券アナリスト業務に従事した後、昭和53年(1978年)にエフ・エム・アール・コープ東京事務所(フィデリティ投信前身)に入社し、1999年まで資産運用・企業調査業務に携わってきました。注目すべきは、資産運用の世界でこれほど長く経験があるプロフェッショナルは少なく、また驚異的な運用成績とともにその徹底した企業調査手法は機関投資家のみならず個人投資家も多くの学ぶべき点にあります。インタビューを通して、現在の株式市場への見方から企業調査アプローチなどに迫っていきます。

投資家に伝えたい3つのポイント

●アベノミクスによる株高には、柱はありません。
●今のような時こそ相場環境に左右されることなく、しっかりした経営をする会社を探し、そうした銘柄をポートフォリオのコアに据えるのが基本です。
●オリンピックの間に株価が上がっていたということはないです。

歴史に見るアベノミクス相場の裏側-ベテラン運用経験者による株式市場の見方

Longine泉田良輔(以下、泉田):アベノミクスで2012年末以降、景気とともに日本の株式市場が盛り返したように見えますが、この相場は本物でしょうか。

山下裕士相談役(以下、山下):まずは、長期的視点から現在の状況を整理するところからはじめましょう。日本でいえば、1965年から国債を発行して財政支出主導型経済で成長してきました(編集部注:戦後、インフレの原因になったという反省から赤字国債の発行と日銀の赤字国債引き受けを禁止。1965年に補正予算で赤字国債の発行再開)。他の先進国も日本と同様です。まずはこの前提を理解しておかなければなりません。

泉田:日本の財政状況は厳しく、大きな財政出動は難しくなってきていますよね。

山下:日本だけではありません。現在先進諸国どこの国も財政が大変厳しくなっています。リーマンショック後に多少の財政出動はありましたが、中国での4兆元の財政支出が最も大きかったくらいです。先進国各国は基本的には金融緩和によって景気回復をさせました。結果、世界中で供給されたマネーは世界のGDP合計値の数倍にも膨れ上がっています。米国はこれまでの金融緩和スタンスと比べると少しずつブレーキをかけようとしていますが、日本はいまだ追加緩和を期待する市場となっています。