臼と杵でつくお餅はどうしておいしいのか?

変わるキッチン(第9回)~つく

2014.12.26(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 餅つき機の登場とともに、市販の切り餅も進化を遂げた。佐藤食品工業は1964(昭和39)年に包装餅の製造販売を開始。翌年には、加熱殺菌した板餅タイプを売り出し、ヒットとなった。さらに1973(昭和48)年には、真空包装機を使い、レトルト殺菌した切り餅を発売。こうしてわざわざつかなくても手軽に餅が食べられる時代になり、臼と杵は徐々にその姿を消していったのである。

臼と杵だからこそ出せる食感

 ではなぜ、いまもしぶとく臼と杵は存在しているのだろうか。

 一般に杵つき餅はコシが強く、羽根が回転する「ミキサー式」(家庭の餅つき機はこのタイプ)でつくる餅はよくのび、スクリューで練りながら押し出す「練り出し式」の餅はやわらかいといわれる。これには、ちゃんと科学的な理由がある。

 ミキサー式や練り出し式の場合は、もち米の粒のやわらかい内層部分だけが潰れ、硬い外層部分が残りやすく不均一なうえに、内部に大小の気泡が多く含まれる。一方、杵で丹念についた場合は上から力が加わることによって内層も外層も均一によく潰れるのに加え、空気が押し出されるために気泡は小さく少ない。

 このため、杵つき餅は密度が高く、弾力性に富むが、ミキサー式や練り出し式の餅はやわらかめで、雑煮などに入れたときに溶けてしまいやすいのだ。

 「こねる」でもなく、「練り出す」でもない、一定の力でとんとんと「つく」ことによって生まれる粘りのある食感。それは日本人の舌に深く刻み込まれたものなのだろう。

 昭和30年代頃まで農村では、正月だけでなく節分や節句、田植えや刈り入れ、お盆やお彼岸など何かにつけて餅をついていた。結婚や出産、葬式など人生の節目には餅がつきものだった。いまや折々に餅をつく暮らしからはずいぶんと遠ざかってしまった。だが、それでも臼と杵でついたつきたての餅に対する特別な思い入れはいまだに存在している。そのことは結局のところ、「つく」という原始的な調理法がもっとも理に適ったものであり、ほかに優る味がないことを示している。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


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