写真1 女川の漁師、鈴木高利さん。丸いリングに付けた網を降ろし、そこにカキを入れて引き揚げる

 東北に住む筆者がほかの地方に行くと、「被災地はどんな状況ですか」と、よく尋ねられる。

 「復興は少しずつ進んでいるが、被災地が再生するには、いろいろな問題が山積している」

 復興の進み具合がまだら模様なうえに、時間では解決しない問題も出てきているなかでは、こんな答えをするしかない。

 復興庁のデータによると、岩手、宮城、福島の被災3県の「被災者」数は、いまだに20万人を超えている。その半数近くが劣悪な住環境である仮設住宅で新年を迎える。隣室の音も声もまる聞こえで「電話をかけるときには布団をかぶって話す」という日常は、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条)に抵触しているおそれもある。「風化」ではすまされない現実が広範囲に残っているのだ。

カキの殻を傷めずに収穫する“鈴木メソッド”

 先日、宮城県女川の漁師を訪ねた。震災で妻と、同居していた両親をなくし、子ども3人を育てている鈴木高利さん(48)だ。

 町役場の近くにあった野球場に建てられた仮設住宅から毎朝、保育園に通う次女の柚葉ちゃん(6)を連れて「出勤」する。子どもを保育園に預けると、もともと暮らしていた女川町尾浦の漁港に向かう。そこで、養殖用の漁船に乗り、1キロほど沖合のカキの養殖場に向かう。9月中旬から3月にかけてがカキの収穫期で、カキを買い取る水産卸会社が休みの日曜日を除き、大しけにならない限り毎日、収穫する。