(2014年12月12日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

EU、次期欧州委員長にユンケル氏を指名 英国は反対

11月1日に欧州委員会委員長に就任したジャン・クロード・ユンケル氏は18年にわたりルクセンブルク首相を務めた〔AFPBB News

 ジャン・クロード・ユンケル氏は、いたずらっぽい表情を浮かべていた。2004年の選挙直前のこと。当時ルクセンブルク首相だったユンケル氏は、自身の小さな大公国がまた1つ大きな企業の獲物を獲得することを秘密にしておけなかった。

 米国のインターネット企業からの関心が一気に高まる中で、AOLとアマゾンはすでにルクセンブルクに拠点を移していた。

 ライバルの政治家、ジャノ・クレッケ氏は、ユンケル氏がもっと多くの企業がやってくるとほのめかしていたことを思い起こす。少し間を置いてから、ユンケル氏は冗談を言ったという。「私はリンゴが好きなんだよ」

低税率で外国企業を続々誘致、首相自らが積極関与

 それからすぐにアップルの「iTunes(アイチューンズ)」部門がルクセンブルクに欧州本社を設置し、その後、マイクロソフト、シスコ、イーベイも加わり、正真正銘のハイテク企業の波が押し寄せた。それは、欧州で最も小さな主権国の1つであるルクセンブルクにとって、経済改革のもう1つの勝利として歓迎された。

 だが、あれから10年が経ち、折しもユンケル氏が欧州委員会委員長としてキャリアの頂点を極めた矢先に、この戦略はその立役者を政治的な批判の嵐にさらすことになった。

 欧州連合(EU)は今、ルクセンブルクが外国企業2社――アマゾンとフィアット――に与えた税優遇策が甘すぎなかったかどうか調査している。漏洩された数千ページに及ぶルクセンブルクの税の裁定*1は、大公国に移転したその他何百社もの企業も微々たる税しか支払わずに済んだことを明らかにしている。

 仲間内でさえ、1人当たり所得の欧州長者番付のトップに躍り出るというルクセンブルクの思いがけない成果――疲れ果てた鉄鋼生産国から活況に沸く金融センター、衛星の草分け、電子商取引のハブへと変貌する40年間の歩み――でユンケル氏が果たした役割が同氏の破滅の原因になるのではないかと懸念する人がいる。

 好況期には、ユンケル氏が自らの功績を主張するのをためらうことはなかった。「私は欧州拠点としてルクセンブルクを選ぶようこれらの企業に個人的に働きかけた。恥ずかしく思うことではないし、正当化する必要も感じない」。ユンケル氏は2004年に、レビュー誌の取材でこう語った。

 同じ年、ル・コティディアン誌に対しては、次のように言い切った。「我々はAOL、アマゾン、マイクロソフトを誘致した。これらの企業が偶然我々の元へ転がり込んだと思う人もいる。たが、AOLとの交渉は200時間に及んだ。激務を厭わず、懸命に取り組む姿勢がなければならない」

*1=企業がどう徴税されるか確認する税務当局からの書簡。ユンケル氏が財務相に就任して間もない1990年代初めに導入された