手元には先週キルギスで入手した中国政府発行のロシア語雑誌がある。対中央アジア宣伝用と思われる小冊子の表紙はご覧のとおり、「我愛中国」と漢字で書いた若いキルギス人女性だ。

 両国はそんなに仲が良いのか、と思う人はまだ素人である。へそ曲がりの筆者は、「やはり、キルギス・中国関係はあまり良くないのだな」と直感した。というわけで、今回のテーマはキルギスから眺めた隣国・中国である。

英雄マナスを殺したのは中国人?

「我愛中国」と漢字で書くキルギス人女性

 キルギス共和国の首都はビシュケク。前回も書いたとおり、キルギスは、北はカザフスタン、南はタジキスタン、西はウズベキスタン、東は中国新疆ウイグル自治区と国境を接する中央アジアの小国だ。

 キルギスなる名称はテュルク語の「クゥルク・クゥズ」から転じたとの説が有力で、「40の部族」を意味するらしい。この険しい山岳地帯で生き抜いてきた遊牧民諸部族の連合体がキルギス人だと思えばよい。

 キルギス人の祖先はシベリアのエニセイ川上流に定住していたという。その後、彼らは1世紀に匈奴の、6世紀に突厥、また7世紀に唐、8世紀には回鶻の支配下にそれぞれ入った。

 さらに、13世紀にはモンゴル帝国の支配下に置かれたが、16世紀頃には現在のキルギス共和国の領域に移住してきたようだ。このキルギス人と中国人との関係については、今回現地で面白い話を聞いた。

 ビシュケクにある空港はマナス国際空港と呼ばれる。「マナス」とはキルギスに伝わる叙事詩とその主人公の勇士の名前だ。口伝で五十万行にも及ぶその叙事詩は「世界で一番長い詩」らしい。

 ビシュケクの誰に聞いても、キルギスの象徴はこの英雄「マナス」だという。どうやら、この「マナス」なる文化遺産が「キルギス人」の連帯の源らしいのだが、何とその「マナス」を殺したのは「中国人」だというのだ。

 一方、中国側の歴史学者はキルギスの「マナス」を中国の三大叙事詩の英雄の1人と考えている。

 新疆ウイグル自治区にはキルギス人もおり、中国にある「マナス研究所」によれば、「マナス」の叙事詩はチベットの「ゲセル王伝」とモンゴルの英雄叙事詩「ジャンガル」と同じく「中国の文化」の一部だという