(英エコノミスト誌 2014年11月29日号)

アジア通貨戦争の不安は誇張されている。

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首相に返り咲く前から円安誘導を訴えてきた安倍晋三氏〔AFPBB News

 安倍晋三氏には、戦争の思いをかき立てる才能がある。日本の戦没者に対する賛辞や日本の平和憲法を変えたいという願望は、中国と韓国が安倍氏を軍国主義と非難する原因になっている。

 さらに、円に対する安倍氏の見方もある。円の価値を下げようとする安倍氏の取り組みは、アジア通貨戦争という憶測に拍車をかけた。その前提になっているのは、中国と韓国も自国の輸出品が競争力を維持できるように自国通貨を安値誘導しようとするというものだ。

 韓国の与党セヌリ党の代表、金武星(キム・ムソン)氏は先日、通貨の衝突に備えるよう政府に求めた。11月21日の中国の利下げを最初の一斉射撃と見なす者もいた。利下げが人民元下落を促したからだ。

 だが、幸いにも、全面的なアジア通貨戦争の可能性は、軍事的衝突の可能性と同様、心配性の人たちが言うよりはるかに低い。

円相場と輸出の関係に異変

 安倍氏は、2012年末に首相に就任する前から、日本の輸出業者を支援するために円安を求めてきた。

 安倍氏の要請を受け、日銀はインフレに火をつけることを期待して「量的緩和」政策――マネーを創出して国債を買い取る策――を採用した。これが円を急落させ、円相場は昨年初め以降、元とウォンに対して20%以上下落した。

 だが、日本の輸出はほとんど拡大しておらず、もちろん、この地域の競争相手を犠牲にしていることもない。例えば、中国と韓国の対米輸出は過去2年間で約20%増加したのに対し、日本の対米輸出は2%減少している。

 日本の輸出と円とのつながりが断たれていることには、2つの大きな理由がある。

 1つは、多くの日本の製造業者が近年海外移転を進めてきたことだ。国際協力銀行によると、日本企業の生産高の3分の1は今、海外で生み出されており、1980年代の1割強から上昇しているという。円安は、かつてのような輸出の強壮剤ではなくなっているのだ。