(2014年11月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 英国の閣僚が公の場で大胆になることは、めったにない。国内で最も秘密主義の男たちは言うまでもない。このため、英政府の通信傍受機関、政府通信本部(GCHQ)のロバート・ハニガン新長官が就任1週目にこれほど大きな波紋を呼んだことは、英国の各諜報機関の関心事を表す兆候だ。

米国のハイテク企業は「テロリズムの促進役」

 ハニガン氏は4日付の本紙(英フィナンシャル・タイムズ)への寄稿で、米国の大手ハイテク企業はテロリズムの促進役になったと主張した。エドワード・スノーデン氏による暴露の後、プライバシーの保護を願うあまり、ハイテク企業は行き過ぎてしまったと同氏は示唆している。

 「伝統的にあらゆる(諜報)機関の中で最も控えめなGCHQの新長官が何かを言うこと、ましてや就任早々にこんな発言をすることは、本当に異例だ」。シンクタンク、英国王立防衛安全保障問題研究所(RUSI)のマイケル・クラーク所長はこう言う。「戦略的な判断が下されたのは明らかだ。GCHQは非常に積極的に自説を訴えようとしている」

 英外務省は、ハニガン氏の寄稿については知らされていたが、連立与党の高官はその内容を決めることに一切関与していないと主張。外務省報道官は「すべてがGCHQから出されたものだ」と述べた。

 GCHQ史上あった無数の事例が浮き彫りにしているように、同機関の秘密主義の性質は深く染みついたものだ。例えば、1940年代にソ連の諜報活動についてGCHQが米国と共有した暗号解読文は、あまりにデリケートな内容で、米国大統領に知らせるにも不適切だと見なされた。

 多くの意味で、GCHQは兄弟機関の後を追っている。英国の国内諜報機関である情報局保安部(MI5)は、2005年7月のロンドン地下鉄・バス爆破事件の後、広報外交に向けた暫定的な第一歩を踏み出すことを余儀なくされた。一方、秘密情報部(MI6)は、いまや退任間近のジョン・サワーズ長官を2009年に任命することで、英政府内外での関係構築に乗り出した。

議論要請のタイミングと緊急性の背景にある2つのトレンド

 だが、GCHQのデビューは穏やかとはほど遠いものだった。それも間違いなく、組織の思い通りに管理されたものではない。

 ハニガン氏の発言は、GCHQのイメージを磨く願望などではなく、必要性から生まれたものだ。公の議論を求める同氏の呼びかけのタイミングと緊急性の背景には、2つのトレンドがある。