経営力がまぶしい日本の市町村50選(32)

 2008年にJBpressを始めた私はサイト運営が軌道に乗り始めた頃からアジアへ出張に行くようになった。最大の理由は、デフレが続き出口の見えない暗いトンネルの中にあった日本で、とりわけ若い人たちに閉塞感が強く漂っていたからである。

引きこもりが治るアジア、実は秋田県でも

秋田県藤里町

 アジアではその当時から既に多くの若者たちが様々なチャレンジを始めていた。高い成長が続くアジアではチャレンジすることに事欠かないどころか、停滞することを許してくれない環境にあった。

 何かをしたい、しようという若い人たちにとって、絶好の環境と言える。

 アジアで活躍を始めたそういう人や企業を取材して記事を書き、何をしていいか分からず日本でくすぶっているならアジアに出てみたらどうですか、というメッセージを送りたかった。

 フィリピンのセブ島に行ったとき、現地で日本の中古車を世界中に売るビジネスや英会話学校を運営している原洋介さんに次のように言われたことは今でも鮮烈に覚えている。

 「日本では定職につかないニートや心の病を抱えた若者が増えて問題になっていますが、そういう人たちを私はフィリピンに連れて来たいんです。ここで鬱病になる人はほとんどいません。病気にかかった人も治ってしまう」

 ニートや鬱病と言うと、本人の問題だと思われがちで、対策も結局は本人に対するものにとどまってしまっている。しかし、最大の対策は、経済を発展させ働く人に様々なチャンスを提供することなのである。

 経済成長が続くアジアはその意味で可能性が実に高い。でも、海外に行けない人はどうしますか、と言われると困ってしまう。ところが、その答えを見つけたところが秋田県にあった。青森県との県境に位置し世界遺産の白神山地がある藤里町の社会福祉協議会である。

 もともとは高齢者の支援を行っていたところ、実は高齢者の家庭で困っているのは高齢者そのものの生活よりも親の年金を頼りに生活し仕事もしないで家庭に引きこもっている若者の方だった。

 そこで対策を始めたのだが、聞き取り調査などを進めていくと引きこもる若者に問題があるというよりも、若い人たちにやりたい仕事を提供できない環境の方に大きな問題があることが明らかになる。

 とはいえ若者に魅力的な仕事は簡単に作れないが、実は問題はそんなに難しいところにはないことが分かってきた。興味のある仕事はあるのだが、それを引きこもる若い人たちが知らないか、知っていてもアクセスする方法がなかったのだ。

 情報のギャップ、あるいは仕事に対する常識のギャップと言えるかもしれない。 そのギャップを埋められれば引きこもりは減るかもしれない。藤里町の社会福祉協議会はそう考えた。そして実行に移す。すると・・・。

 藤里町の社会福祉協議会で実際に引きこもり者の支援を行っている加藤静さん(藤里町社会福祉協議会・係長)に聞いた。