(2014年10月7日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は意気地無しなのか? 大統領には男らしいイメージがあり、クリミア併合で西側に衝撃を与えた。しかし、モスクワには、プーチン氏がさらに踏み込まなかったことに苛立っているように見える強硬派がいる。

 そんな1人がヴャチェスラフ・ニコノフ氏。ロシア下院の教育問題委員会委員長で、ヨシフ・スターリンの下で長年外相を務めたヴャチェスラフ・モロトフの孫である。ニコノフ氏は、プーチン氏のウクライナ政策を「非常に慎重」と評している。

ロシアに広がるナショナリズムと西側への疑念

「弱者は打たれる」、プーチン氏 最初の首相就任から10年

マッチョなイメージで、クリミアを併合して西側にショックを与えたプーチン大統領だが・・・〔AFPBB News

 筆者は先週、下院内のニコノフ氏の執務室に座り、祖父ならウクライナをどう扱っただろうかと尋ねた。若干顔を赤らめながら、ニコノフ氏はこう答えた。「モロトフならウクライナに侵攻し、1週間で掌握しただろう」

 もしニコノフ氏の見解が主流から遠くかけ離れているのなら――あるいは、彼が洗練されていない二流政治家だったなら――、この発言には何の価値もない。

 だが実際には、ニコノフ氏が抱くナショナリズムと西側に対する強い疑念は現在、ロシアではごくありふれたものなのだ。

 ニコノフ氏はカリフォルニア工科大学のような米国の有名大学で教鞭を執ったこともある大学教授であり、著作家だ。だが、米国に関する疑う余地のない知識にもかかわらず、ニコノフ氏と話すと、まるで西側から鏡を通り抜けるような感じがする。

 筆者が最近訪問した欧州の首都、特にワルシャワとベルリンでは、ウクライナ危機に関する一定の考えは既成事実と見なされている。いわく、クリミアの併合は違法な侵略行為だった。ウクライナではロシアによる直接的な軍事介入があった。実際、ドイツ政府はウクライナ東部の戦闘で500人から3000人のロシア軍正規兵が死亡したと考えている。

ウクライナ紛争がロシアと西側の戦争に発展する恐れ

 しかし、ニコノフ氏の世界では、ウクライナ危機は米国による侵略の産物だ。ウクライナには確かに外国の兵士や軍事顧問がいるが、それは米国人であって、ロシア人ではないというのだ。これらはロシアのテレビで日常的なテーマとなっている。

 ロシアメディアのナショナリスト的な論調は、バルト諸国とポーランドで大きな懸念材料となっている。だが、ロシアとポーランド双方の危機の分析が合致するところが1つある。鏡の両側の政府高官と評論家は、ウクライナ紛争がロシアと西側諸国の大掛かりな戦争に発展する真の危険が存在することに同意しているのだ。