(2014年9月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 ロシアの経済界と経済官僚らは、ロシアの大物実業家の1人、ウラジーミル・エフトゥシェンコフ氏が逮捕されたことにショックを受け、不安を抱いている。

 ロシアの有力経済団体、ロシア産業家企業家連盟(RSPP)のアレクサンドル・ショーヒン会長は、ウラジーミル・プーチン大統領にエフトゥシェンコフ氏を擁護する嘆願書を送った時、直接手渡すよりも宅配便で送った方が賢明だと考えた。

石油・ガス産業の国有化の始まりか

 ロシアで最も裕福な資産家の1人で、複合企業システマの大株主であるエフトゥシェンコフ氏は9月16日、システマの関連会社バシネフチ絡みの事件で、マネーロンダリング(資金洗浄)の容疑で自宅軟禁下に置かれた。バシネフチは国営石油会社ロスネフチが買収しようとしていた企業だ。

 ロシア政府は、これが政治問題であるとの指摘を断固として一切退けているが、実業家や政府内の改革推進派は、この一件はウクライナを巡る地政学的危機と制裁がもたらす圧力がロシアの権力の回廊でいかにゲームの形勢を変えたかを示していると話す。

 「これは地殻構造の変化だ」。ドミトリー・メドベージェフ首相の元アドバイザーで、モスクワのシンクタンク、現代発展研究所(INSOR)の会長を務めるイーゴリ・ユルゲンス氏はこう言う。「これは石油・ガス部門で徐々に進行する国有化の始まりを告げている。それは制裁の直接的な結果であり、安全保障をずっと資源に依存してきた国が出す論理的な答えだ」

 プーチン氏は政権の座にある14年間のほとんどの期間、本能的に国を強くしようとしてきた。大統領就任から1期目と2期目の高支持率は、1990年代にロシアが社会主義から悪徳資本主義に移行した後に国の威信を取り戻し、制度機構を復活させたという認識に大きく由来していた。

 ロスネフチの会長を務めるイーゴリ・セチン氏やロシア鉄道の社長ウラジーミル・ヤクーニン氏など――どちらもプーチン氏と同様、保安局でキャリアをスタートさせた人物――、プーチン氏が最も信頼する友人の多くが国家統制主義的な傾向を強めている。

西側との全面対立で現実主義のアドバイザーが不利に

 だが、彼らの影響力は長い間、テクノクラートや経済アドバイザーたちによって和らげられてきた。メドベージェフ氏や、現実主義の対話者として外国企業に高く評価されているイーゴリ・シュワロフ副首相の影響を受け、プーチン氏は折に触れて民間企業を擁護し、ロシアの投資環境の改善を奨励してきた。

 しかし、ウクライナ危機がロシアと西側との全面的な対立に発展し、欧米の制裁がロシア政府への圧力を強めるにつれ、こうした現実主義的なアドバイザーたちは話を聞いてもらうのに苦労するようになっている。