(2014年9月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 今年の初め、投資家向けの大きな会合で「地政学的リスク」について講演する機会があった。ロシアから中東、南シナ海、ユーロ圏に至るあちこちの状況を駆け足で説明した。その後、同じように演壇に立った著名なプライベート・エクイティー投資家とコーヒーを飲みながら話をすることができたので、地政学的リスクのことをどれぐらい考えているのか尋ねてみた。

 彼の返事はこうだった。「ほとんど考えませんね・・考慮するのはもっぱら会社とキャッシュフロー、投資案件そのものですよ」

戦争や地政学的混乱を尻目に活況を呈する株式市場

 この人物は、マドリードまで私のジェット機でお送りしましょうかという言葉で会話を締めくくったほどの大金持ちだから、この発言を聞き流してしまうのは賢明ではあるまい。投資家にしてみれば、政治のニュースはスポーツニュースよりは少し大事かなという程度の、いわばバックグラウンドノイズとして扱う方が理にかなう場合がほとんどだ。

 1人の人間として見れば悲劇になる出来事も、投資家にとってはそれほど重要でない出来事になる。実際、シリアの戦いでは20万人近い人命が犠牲になっているが、その一方で株式市場は活況を呈している。

米ダウ平均、終値で初の1万6000ドル超え

米国や英国の代表的株価指数が記録的な高値を更新している〔AFPBB News

 市場と政治の断絶は、ここに来て特に鮮明になっている。先週には、新聞がウクライナや中東の戦争の話、そして英国が分裂するかもしれないという話で埋め尽くされたにもかかわらず、英国のFTSE100指数は14年ぶりの高値をつけた。

 その前の週には、米国のS&P500株価指数が史上初めて2000ポイントの大台を突破した。

 恐らく、政治評論家がこういう話を耳にしたら、だから投資家は近視眼的なんだと苦々しい表情を見せることだろう。しかし、それは違うかもしれない。市場の方が正しいのかもしれないのだ。もちろん、時には政治的ショックが株価をしばらくの間下落させることもあるだろう。

 だが最近の経験に照らせば、株価は驚くほど早く値を戻すことが多い。例えば、2001年9月11日の同時多発テロ後の最初の週に、ダウ工業株30種平均は14%下落した。ところがダウもナスダック指数も、その2カ月後には9.11前の水準を回復していた。

「地政学的好機」に沸いてきた世界

 国際政治が投資家の向こう数年間の――数カ月や数週間ではない――見通しを本当に変えてしまうということが見られなくなって久しい。筆者が思いつく限りで言えば、そういう状況は1973年の第4次中東戦争とそれを機に生じた1970年代のオイルショックの時、そして1979年のイラン革命の時が最後だ。

 これ以降は、地政学的リスクよりも地政学的好機という聞き慣れない概念の方が、世界の特徴をうまく言い表す言葉になっている。