鍋とともに歩んだ「煮る」の進化

変わるキッチン(第5回)~「煮る」

2014.08.29(Fri) 澁川 祐子
筆者プロフィール&コラム概要

 「煮含める」という言葉がなぜか好きだ。

 イモ類や根菜類がひたひたのダシ汁に浸かりながら、鍋のなかでコトコトと控えめな音を立てて震えている。そんな光景を思い浮かべるだけで、ほわっとダシの香りが漂ってきそうで、頬がゆるむ。

 食材本来の味わいを残しつつ、ダシのうまみをしみ込ませる。「煮含める」には、素材の味を生かすことを是としてきた日本料理ならではの感覚がよく表れている。

 同じように長時間煮ることを指す言葉に「煮込む」がある。だが、こちらは食材も煮汁も渾然一体となって味が混ざり合うことに重点が置かれている。和食でも、もつ煮などの煮込み料理はあるが、どちらかといえばシチューなど洋食のイメージが強い。

 では、「煮含める」ときに使われるのは、どんな鍋だろうか。

 絵としてさまになるのは、ちょっと古めかしいアルミを打ち出した片手付きの行平鍋(ゆきひらなべ)や両手付きの鍋といったところだろう。だが、実際のところはテフロン加工の鍋で料理している家も多いに違いない。あるいは、料理道具に関心のある人ならば、圧力鍋や、フランス製のル・クルーゼやストウブといった鋳物の琺瑯(ホーロー)鍋を使っているかもしれない。

 同じように煮物を作っていても、使っている鍋は確実に昔とは変わっている。それがなにかしら、「煮る」という調理法にも影響を及ぼしているに違いない。「煮る」に必須の鍋という道具をたどりながら、その変化を探っていこう。

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1974年、神奈川県生まれ。東京都立大学人文学部を卒業後、フリーのライターとして食や工芸・デザインを中心に、読むこと、食べること、暮らすことをテーマとしたインタビューやルポ、書評を執筆。『森正洋の言葉。デザインの言葉。』(ナガオカケンメイ監修、美術出版社)、『最高に美しいうつわ』(SML監修、エクスナレッジ)の取材構成ほか、近著に当連載をまとめた『ニッポン定番メニュー事始め』(彩流社)がある。


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