6月30日の徐才厚・前中央軍事委副主席(政治局委員)の党籍剥奪処分で、軍における反腐敗キャンペーンは一段落したように見える。しかしながら、胡錦濤時代、軍の人事を壟断してきた徐才厚が残した負の遺産は計り知れない。

 徐才厚に賄賂を送って昇格した高級軍人はいまだに軍の中枢にいるわけであり、また、徐才厚と共に中央軍事委副主席にあった郭伯雄が、腐敗汚職の件でいつ「落馬」(中央紀律検査委による査問の公表)してもおかしくない状況にあると言われている。

 実は郭伯雄も徐才厚に負けず劣らずの腐敗ぶりだったとされる。その郭伯雄に連なる高級軍人といえば、現職の国防部長である常万全がいる。また、現職の中央軍事委副主席である范長龍も徐才厚によって抜擢された人物と見られている。これらの軍人が腐敗と無縁であったとは考えられない。その意味でも軍における反腐敗キャンペーンは、もうしばらく続くと考えた方がいいだろう。

習近平打倒の政変が画策されていた?

 本当かどうか確証のない話を紹介するのは気が引けるが、8月6日の中国語ネット「博訊新聞」が伝えたところでは、習近平の進める無差別の反腐敗キャンペーンに危機感を抱いた范長龍、房峰輝(総参謀長)、常万全らが郭伯雄を擁護し、習近平を打倒する政変を画策したとされている。

 ここに房峰輝が加わっていることに違和感を覚える向きもあるかもしれない。房峰輝は北京軍区司令員として、2009年の建国60周年を祝う軍事パレードの総指揮を務め、胡錦濤とともに観閲車から閲兵した人物で、胡錦濤のお気に入りの将軍と見られていたからだ。

 しかし、房峰輝はれっきとした郭伯雄人脈なのだ。2人の出身地である陝西省咸陽の地縁関係にあるわけで、直系の師弟関係にある。常万全は年齢的に郭伯雄に近いことから、関係はさらに濃密と言えるかもしれない。常万全が蘭州軍区第47集団軍の軍長に就任したのは、郭伯雄の後任としてであった。

 徐才厚が出身地の遼寧省瓦房店を中心に、瀋陽軍区の人脈を形成したのと同様、郭伯雄も蘭州軍区を人脈の形成拠点としてきた。徐才厚が「東北幇」の頭目とするなら、郭伯雄は「西北幇」の頭目と位置づけられるのである。