山田錦の契約田に立てられているのぼり。酒造会社「剣菱酒造」が契約栽培農家に配布している白いのぼりと、JA兵庫の「グレードアップ山田錦」ののぼり(右の2本)が立っている(三木市吉川地区で撮影)。

 前回、日本の代表的な酒米の1つ、山田錦の需要が急増しているのに、なかなか生産が増えないと書きました。今回は、その理由について述べていきましょう。

 最も大きな理由は、山田錦が作りやすい品種ではないことです。山田錦がコメの中でも高価であるといっても、失敗のリスクが高いと農家も栽培を躊躇します。

背が高く「倒伏」しやすい山田錦

 山田錦は、コメの中でも背が高い品種です。背が高いということは、秋、稲穂が充実して重くなってくると倒伏(稲が倒れること)の危険性が高くなります。たわわに実った時期に台風がやって来たりすると、いとも簡単に倒伏します。

 岡山では「幻の酒米」と呼ばれる「雄町」という品種が栽培されていますが、雄町がなぜ幻とまで言われるほど生産量が少ないのかというと、草丈が山田錦よりもはるかに高く、人の身長くらいまでになり、山田錦以上に倒伏しやすいためです。当然、農家も山田錦以上に作りたがらないのです。

 倒伏してしまうと機械での刈り取りが非常に手間のかかることになったり、場合によっては不可能になったりします。その上、山田錦は「穂発芽」と言って、刈り取り期に比較的温度と湿度が高いと、イネが立っている状態でも発芽してしまうことがあります。倒伏していると地面に穂が接触してしまうので、より穂発芽しやすくなります。発芽してしまうと品質は著しく低下します。

 上手に栽培していても、台風が来てなぎ倒されることもあります。昔なら、倒伏してしまっても家族や親戚総出でなんとか刈るなんてこともできましたが、土日しか農業をする時間のない兼業農家ではそんなことは不可能です。