(英エコノミスト誌 2014年8月16日号)

貿易戦争は「メニュ」ーに載っているか?

 モスクワのレストランで、もうすぐ新しいメニューが登場するかもしれない。「ベラルーシ産」のムール貝がそれだ――。

 これは、ロシアが対ロ制裁を発動した国々からの食料品輸入を遮断した8月5日以降巷で飛び交っている、少々ソ連風の冗談だ。欧米からの魚介類の輸入は禁止されたが、内陸国のベラルーシにはまだ出荷が可能で、そのベラルーシはロシアと無関税貿易圏を形成している。多くの人は、数十年前に行われていた闇市場の密輸への回帰を予想している。

 今年3月、ロシアによるウクライナ介入を巡り、米国と欧州連合(EU)が最初に限定的な制裁に踏み切った時、ロシア高官の反応は素っ気ないものだった。セルゲイ・ラブロフ外相は、ロシアは「ヒステリックに」報復措置で対抗することはないと述べた。しかし先月、西側がロシアの国有銀行なども対象とする広範な制裁を発動すると、ロシアは対抗措置を取ることを余儀なくされた。

 西側諸国が、例えば海底油田探査向けの技術など、主にロシアに対する輸出を取りやめたのに対し、ロシアが西側からの輸入を禁止したことは、多くのことを物語っている。石油と天然ガスを除けば、西側諸国にとって重要なロシア製品は少なく、こうした資源輸出の停止はロシアの企業と政府にとって財政的な破滅を意味する。

 しかしロシアは、ポーランド産のリンゴやノルウェー産の魚類など特定のEU産1次産品にとって重要な市場だ。ロシアの禁輸措置により、ざっと90億ドル相当の財に影響が出る。

相手より自国に大きな打撃を与える食料品の禁輸措置

 ウラジーミル・プーチン大統領が講じた措置は、一部の欧州の農家に打撃を与える。だが、ロシア国内では、それ以上に大きな影響が感じられるだろう。

 ロシアは食料品の約4割を輸入している。食品価格の急騰は不可避で、しかも影響が及ぶのはブリーチーズを食べるような専門的職業に就くモスクワ市民ばかりではない。新規生産者への移行は、全所得層の消費者にとって食品価格を押し上げることになるだろう。

 店頭の棚が空っぽの状態が長期間続くことはないだろうが、禁輸措置は心理的にソ連時代の品不足を思い出させる。政府に忠実な向きも無反応ではない。親クレムリンの評論家、ウラジーミル・ソロビエフ氏はあるラジオ番組で、食べ物であれ洋服であれ、選ぶ権利が「豚と人間を区別する」ものだと息巻いた。

 プーチン氏は、インフレを防ぐために、制裁のコストを消費者から企業に転嫁する物価統制をほのめかしている。しかし、物価統制は、これを「政府の恣意性のもう1つの兆候」と見なす投資家や起業家の意欲をそぐ恐れがあると、ロシア高等経済学院のコンスタンチン・ソニン副学長は指摘する。