脱原発の“不都合な真実”:ドイツの実態に目を向けよ

偏向した情報を伝える日本の報道、議論すべきは最善のエネルギーミックス

2014.08.20(水) 川口マーン 惠美
    http://goo.gl/4r4uPv
  • 著者プロフィール&コラム概要

 また、送電線の建設がほとんど捗っていないことも、日本ではあまり報じられない。来年はいよいよ、バイエルン州のグラーフェンラインフェルトの原発が停止される予定だが、その代替となるのは、北部ドイツの風力電力ではなく、近隣の火力電気になる。というのも、北から南に電気を運ぶ送電線の建設が整っていないからだ。

 原発は、その後、17年と19年にさらに1基ずつ、21年と22年に3基ずつと、あと8年ですべて停止することになっている。それまでには、再エネの生産量はもっと増えているだろうが、送電線の建設は間に合いそうにない。だから、実際に原発を代替するのは再エネではなく、火力発電になるだろう。

 それを見越して、ドイツではこの2年の間に10基の石炭火力発電所が建設される予定だ。すでに今でも、経営が苦しくなってしまった電気会社は、高いガスではなく安い石炭を使っているので、CO2の排出が増えている。

 褐炭(石炭よりももっと空気を汚す)の消費は、東西ドイツが統一した1990年と同じ水準まで戻ってしまった。ドイツの脱原発の進捗具合については、こういう全体図を見る必要があるのではないか。

「好き、嫌い」だけの議論は不毛

 再エネの技術はどんどん開発すべきだ。それには誰も異存はない。しかし、現実の電力供給は、まだ再エネだけではやっていけない。そのために絶対必要な、採算の合う蓄電技術が確立していないからだ。

 水力電気は、蓄電(正確には蓄水)が簡単にできるので、例えばノルウェーは水力という自然のエネルギーで国内のほぼすべての需要を賄っている。

 ただ、それは、ノルウェーの自然が山と水に恵まれていて、しかも、人口がたったの400万人で、電気消費の規模が、ドイツや日本などとは比べ物にならないほどの小さい国であるから可能なのだ。

 ドイツではこれだけ再エネの発電設備が増えたのに、現実は、それにもかかわらず、原発が無くなった時のために火力発電所を建設している。それは何故なのか?

 ドイツの電力会社が悪徳で、自分たちの利益だけを考えているからだという説明だけでは、あまり説得力はない。どんなに再エネが増えても、それだけではドイツという産業国の電気をまだ安定に供給することができないから、建設しているのである。

 日本は、そのドイツよりももっと厳しい状況に置かれている。自前のエネルギー(褐炭)もなければ、地続きの隣国もない。だから、電気が足りなくても買うことはできないし、余っても売ることもできない。

 それどころか、すでに今、化石燃料の輸入に、年間4兆円近くの超過出費を強いられている。原発の稼働を阻止し続ける限り、この出費は無くならない。そして、一番不都合なのは、再エネが伸びても、この出費は大して変わらないということだ。それは、ドイツの例を見ればよく分かる。

3
スマートエネルギー情報局TOPに戻る
PR
PR
PR
バックナンバー一覧 »

POWERED BY

  • ソーシャルメディアの公式アカウントOPEN!
    TwitterFacebookページでも最新記事の情報などを配信していきます。「フォロー」・「いいね」をよろしくお願いします!
Twitter
RSS

川口マーン 惠美 Emi Kawaguchi-Mahn

 

大阪生まれ。日本大学芸術学部音楽学科卒業。

85年、ドイツのシュトゥットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科修了。シュトゥットガルト在住。

 

90年、『フセイン独裁下のイラクで暮らして』(草思社)を上梓。その鋭い批判精神が高く評価される。『国際結婚ナイショ話』、『ドレスデン逍遥』(ともに草思社)、『母親に向かない人の子育て術』(文春新書)など著書多数。最新刊『サービスできないドイツ人、主張できない日本人』(草思社)好評発売中。ドイツから見た日本、世界をレポートする。

 

2011年4月より、拓殖大学 日本文化研究所 客員教授

欧州

欧州は観光ばかりでなく農業や地方の活性化、また少子高齢化対策などでも日本が学ぶべき点が多い。日本が課題とするこうした点を欧州ではどのように克服しようとしているのかの実例をお送りする。また、欧州で高く評価される日本の芸術・文化などのソフトパワーについてレポートする。

>>最新記事一覧へ