(英エコノミスト誌 2014年8月9日号)

働き手が不足しつつあるにもかかわらず、実質賃金は下落の一途をたどっている。

 もしアベノミクスに何らかの意味があるとすれば、それは日本に健全な経済成長を取り戻し、長年のデフレに終止符を打つという安倍晋三首相の公約だ。そのために中央銀行は伝統的な慎重姿勢を脱ぎ捨て、大量の資金を経済に送り込み、円安を促した。

 安倍氏は日本の展望に関する明るいメッセージで投資家を呼び込んだ。その甲斐あって、株式相場は安倍氏が首相の座に就いた2012年末から6割上昇し、長年低迷していた東京の不動産価格までもが上昇している。

 しかし、大量の株式を保有していない人や、東京のトレンディーな代官山周辺にマンションを所有していない人にとっては、状況はかなり異なる。

なかなか実現しない好循環

 安倍氏とそのアドバイザーたちの謳い文句は、賃金が上昇し、消費支出を押し上げ、それが今度は企業の投資を促す好循環が生まれる、というものだった。そうすれば、大当たり、日本はデフレから脱却する、というわけだ。だが、それは実現せず、1つのナゾになっている。

 その一方で、労働市場は逼迫している。その一因は、例えば建設業界などで労働力に対する強い需要があることだ。だが、急速な人口減少も影響している。現在1億2700万人を数える日本の人口は、2060年までに9000万人を切ると予想されている。生産年齢人口は毎年、およそ100万人ずつ減っていく。現在の失業率はわずか3.7%だ(スペインにとっては夢のような話だ)。

 ところが、労働市場が逼迫しているにもかかわらず、実質賃金は減り続けている(図参照)。

 5月には前年比3.8%減となり、過去数年間で最も激しい下げ幅を記録した。政府が今年の春闘で基本給を引き上げるよう、企業の良心に訴えたにもかかわらず、だ。政府関係者は役員室に入り込んで従業員の賃上げを求めた。

 政府が4月に消費税を5%から8%に引き上げた後、家計が圧迫されるだろうことは最初から分かっていた。日銀の大規模な金融緩和によって、若干インフレが進んだこともその効果を増大させる。それでも政府は実質賃金の上昇を期待していた。