『沈みゆく帝国』は“寝言”か

 アップルの将来に警鐘を鳴らす書籍『沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか』(日経BP)を著した元「ウォールストリート・ジャーナル」の記者、ケイン岩谷ゆかり氏のインタビュー記事が、日本経済新聞電子版(2014年7月30日)に掲載されていた。私はそのインタビュー記事を見て、いささか衝撃を受けた。

 岩谷氏によれば、アップルは典型的な大企業病に陥っており、感情などを交えないドライな「アメリカンウェー」と呼ばれるえげつないビジネススタイルを押し付けているという。要するに、非常に傲慢な企業になっているようである。

 さらに、最近のアップルのものづくりをよく見ると、「薄くて」「軽くて」「美しくて」を連呼しているだけであり、これはまさに、巨大企業が新興企業の前に力を失ってしまう“イノベーションのジレンマ”にはまり込んでいると断じている。

 さらに不運だったことには、アップルが大企業病に立ち向かう段階を迎えたときに、ジョブズ氏が亡くなり、問題の解決がより困難になったと岩谷氏は述べている。岩谷氏はかつてソニーを追っていたことがあり、創業者がいなくなったソニーが衰退していくのを目の当たりにしたという。そして、それと同じことが(否、それ以上のことが)、アップルに起きているようである。

 ジョブズ氏亡き後にCEOを務めているティム・クック氏は、岩谷氏の指摘を名指しで「ナンセンス(寝言だ)」と批判した。岩谷氏が3年間の取材記録と2年にわたる追加取材を基に書き上げた『沈みゆく帝国』が「寝言」かどうかは、同書を読んでから判断したい。

 本稿では、集められる公開データを基に、創業者であるジョブズ氏がなくなったことによるアップルの経営状況の変化を見てみたい。さらに、半導体業界におけるカリスマ経営者についても、同じ観察を試みる。その結果から、カリスマ経営者とその企業の業績が強く連動している結論を導き出す。