「ピーマン嫌いはそのままで」のススメ

食べものの好き嫌いの科学(後篇)

2014.07.25(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 彼らは苦味を非常に強く感じるため、野菜などが他の人に比べてとても苦く感じているとも考えられています。つまり、苦味を強く感じすぎるため、結果として野菜などをとても食べる気になれないということも、ピッキーイーティングの一因になるとも考えられているのです。

嫌いな食べものとの付き合い方も長い目で

――最後に、健康や生活の質という点で考えたとき、人は食の好き嫌いにどう対処していったらよいと考えますか?

八十島 あくまでも私の立場からの意見を言わせていただくと、それほどその問題を深刻に考えなくてもよいのではないかと考えています。

 もちろん、極端な偏食で、例えばファストフードやジャンクフードしか食べないといった食べ方には問題があります。そういう人に対しては、例えば親などの周囲の人が介入して、様々な食べものを食べさせた方がよいでしょう。

 確かに、嫌いなものを克服することの意義は人の成長を促すという意味において、発達心理学の分野では指摘されてはいます。ピッキーイーティングの克服にも、嫌いな食べものを飲み込まなくてもいいので、その味を何度も経験しようというような努力を促す提唱もあります。

 しかし、嫌いな食べものが少しあるといった程度ならば、それほど極端な偏食ではありませんので、それ以外の代替となり得る食べものを摂れば栄養も補えるのでそれでよいのではないか、というのが私の考え方です。

 ピーマンが嫌いだとしても、ピーマンに含まれるビタミンCなどの成分は、他の食べものからも十分に得ることができます。子供にピーマンを好きになるように無理な努力をさせることが、かえって精神的負荷になってしまうと、食全体への関心を下げかねません。食への関心を保つことの方がより重要であると思われます。

 子供の好き嫌いについては、感覚、学習、動機づけなどの点も考えるべきだと思います。たとえば、お子さんはスーパーティスターのために、野菜が苦くて仕方ないかもしれません。好き嫌いの理由は、こうした個人特有の感覚生物学的なものである場合もあるわけです。個人の味覚は他の人と共有しにくいものなので、周囲の人はその子供が極めて野菜を苦く感じていると予想できないことさえあります。

 また、ピーマンを食べないのは味覚嫌悪学習に原因があるのかもしれません。子供の場合は、自分がどうしてそれを嫌悪するのか、その理由を本人すら分からないかもしれませんし、上手く説明ができないのかもしれないのです。その子の好き嫌いの原因が、これらの生物学的なものであるとすれば、嫌いを克服させようと無理に食べさせることが果たして大事なことになるでしょうか。

 お子さんに食べものの好き嫌いがあると、親御さんにとっては気になる点であるとは思います。しかし、味覚・食の嗜好は年齢とともに変わるものです。大人になると食べられるようになる食べものもあります。たとえそうならなくても、他の食材で栄養的な補完もできます。無理強いすることのデメリットについても考え、メリットとのトレードオフを個別の食べものに対して考える方がよいのでないかと思います。

 私自身も、年を重ねていく過程で、嫌いな食べものが好きになるという経験をしてきました。人の好き嫌いはまさに千差万別で、個々人の経験そのものの反映なのですから、長い人生の中でそれにじっくり付き合うことも一法なのではないでしょうか。

いかがでしたか?
JBpress をブックマークしましょう!
Twitterで @JBpress をフォローしましょう!
Facebookページ に「いいね」お願いします!

この連載記事のバックナンバー
トップページへ戻る

1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


食の万華鏡

食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。