(英エコノミスト誌 2014年7月19日号)

ユーロ圏が学べるスイスの教訓

 ユーロ危機は、数十年に及ぶ統合で消し去ろうとしてきた、ゲルマン系の北部とラテン系の南部との間の亀裂を再び生み出した。経済学者や政治学者らは、溝が消えない理由に頭を悩ましている。中には、工業化のパターンや知識の違い、さらには罪と贖罪に対するカトリック教徒とプロテスタントの考え方の違いを指摘する者もいる。その根本原因が何であれ、ユーロは亀裂を悪化させた。

言語、宗教の違いを乗り越えて繁栄するスイス

 ベルギーは、ユーロ圏が陥るかもしれない状況の気掛かりな一端をのぞかせている。経済的に依存するフランス語圏の南部と支援する側のフラマン語(オランダ語)圏の北部との間の悪意ある恨みに満ちた、政府が何層もある過度に官僚的な機能不全の政体である。だが、もっと希望に満ちた手本もある。言語的、宗教的な分裂にもかかわらず、繁栄と満足感、そして直接民主主義を結び付けているスイスだ。

 本誌(英エコノミスト)の姉妹会社であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニットが作成した2013年の「生まれるのに最適な国」の指標では、スイス連邦が断トツの1位につけた。

 欧州連合(EU)はよく、インスピレーションを得るために大陸の連邦国家である米国に目を向ける。だが、EUは、スイスがどのようにカトリックとプロテスタント、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語を話す人々をまとめているかを学ぶことで有意義な教訓を得られるだろう。

 ここでは通常の固定概念が崩壊する。ジュネーブやヴォーのようなフランス語圏の州が、ウーリのようなドイツ語圏の比較的貧しい州の代金を払っている。スイスにはあらゆる好みに適うものが何かある。スカンジナビアのような生活水準、ドイツのような財政面の厳格さ、フランス式の「連帯」の財政移転、ルクセンブルクのような銀行機密を重視する姿勢、アイルランドのような租税競争、英国のようなEUに関する意固地さなどだ。

 スイスはEUの一員でもなければ、もう少し緩やかな共同体である欧州経済地域(EEA)の一員でもない。スイスは、ブリュッセルと2者間協定のネットワークを張り巡らしている――もっとも、労働者の自由な移動を拒否した2月のスイスの国民投票で、こうした協定は破棄されるかもしれないが。

 何よりもスイスは、ユーロ圏のように財政赤字から労働政策、年金、投資に至るまであらゆることに中央の厄介な命令が及ぶことのない、成功を収めた通貨同盟を持っている。スイスの各州は中世に結びつき始めたが、これらの州が単一市場を発展させたのは19世紀になってからだ。スイスの単一市場はEUのように、最初はモノから始まり、不完全な形でサービスに拡大した。単一通貨は1850年から複数の州の通貨に取って代わった。

 スイスはどんな教訓を提供してくれるのだろうか? 課題は可能な限り低いレベルの政府で処理されるべきだという強力な補完性の原理である。各州は少しずつ権限を連邦政府に移譲してきた(連邦政府の徴税権は定期的に見直されなければならない)が、地方自治体にも権限を移譲してきた。政府の3つのレベルすべてが徴税権を持っており、問題が住民投票によって決定される規定を備えている。