空洞化が叫ばれて久しい日本の製造業だが、最近“回帰現象”が起きていると聞く。生産拠点をベトナムやカンボジアなどポストチャイナの新興国に移す企業がある一方で、「日本に戻す」企業も少なくないようだ。日本の工場立地は今後、どのように再編されていくのだろうか。

 東京に本社を置くX社は、10年前から中国で自動車のプラスチック部品加工を行っているが、近年は中国で人件費が高騰し、中国に拠点を置くメリットはほとんどないという。

 X社の中国工場は一時は拡大路線をたどり、日本の本社工場とは比較にならないほど大規模で従業員も多い。しかし発展は幕を下ろした。X社では、中国の拠点がなくなっても生産を継続できる体制づくりを急いでいる。目下取り組んでいるのが、日本の生産拠点の拡充だ。

 日本に目を向ける最大の理由は、価格競争から抜け出すためである。Y社長は「これからは日本製で戦いたい。メイド・イン・ジャパンなら、中国産の倍以上の価値があります」と意気込む。

 そしてY社長はおもむろに2つの部品をテーブルの上に並べた。「右が中国製、左が日本製です。見た目は同じですが、品質はまったく違います。中国製は材料に混ぜ物を加えるから、品質維持が困難なのです」

 中国製の部品は、この10年にわたってX社に大きな富をもたらした。だが今では、低コストで生産することが難しくなってきた。また、市場では「高価な日本製」が再び価値を高めており、Y社長はそこに目をつけている。「確かに中国で作るのよりもコストはかかります。けれども、日本で作る方がトータルとして得をするんです」