あなたの好物は“腸と脳の対話”が決めている

食べものの好き嫌いの科学(前篇)

2014.07.18(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

腸と脳の連携によって好き嫌いが決まる

──後天的に食べものを好きになったり嫌いになったりすることもありそうですよね。

八十島 ええ。自分の経験によって好き嫌いが変わっていく場合もあります。先ほど、苦味や酸味は人の赤ちゃんにとっても先天的に嫌いな味覚だと話しました。でも、乳幼児の味覚や食べものへの好き嫌いは、親御さんや同世代の子供たちの影響を受けることもあります。

──例えば、どのようなことですか?

八十島 「新奇性恐怖がなくなっていく」という学習の過程が一例です。人を含む雑食性の動物は、様々な種類の食べものを食べることができるわけですが、赤ちゃんや子供の頃は食べる経験そのものが少ないため、接する食べものは初めての場合がほとんどです。動物は、出合う食べものに毒が含まれているどうかを食べる前に知ることができません。つまり、新奇な食べものは潜在的に危険なものであるとして、動物たちは用心しながら、それを少量だけ食べるのです。このような行動傾向を「食物(味覚)新奇性恐怖」と呼びます。

 新奇の食べものがたとえ甘くておいしくても、初めてのものであれば、動物はためらいながら食べることになります。その後、お腹が痛くなったり気持ち悪くなったりしなければ、消化管から、たとえて言えば「内臓機能は順調で、これは安全だ」ということを表す情報が脳へと送られます。すると、脳はその情報を事前に経験していた味覚情報と関連づけて(連合して)、「その味は安全である」と学習し、その味を覚えます。そして、その学習内容をその味との次の出合いの場で思い出すので、前回よりもためらわずにより多く食べるようになるのです。

 この場合はその甘い食べものが「これは安全」というラベリングがなされるので、次回はより多く食べられることになります。しかし、別の味の食べものの場合には、「それが好き」となるためには、その味を繰り返し経験していく必要もあると考えられています。

 このような新奇性恐怖とその減少は、人においても見られます。こうした経験を繰り返すと、食べられるものの種類が増えていき、様々なものを食べられるようになるわけです。

──いまのは後天的に食べものを好きになる場合でしたが、逆に後天的に食べものを嫌いになる場合もあるのでしょうか?

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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