あなたの好物は“腸と脳の対話”が決めている

食べものの好き嫌いの科学(前篇)

2014.07.18(Fri) 漆原 次郎
筆者プロフィール&コラム概要

 われわれ人を含めた多様な動物は、植物の葉などを苦く感じます。植物にとって葉は貴重な資源であり、食べられては困ります。そこで植物は、葉にアルカロイドなどの消化を阻害する物質や毒性をもつ物質を含むように進化してきたと考えられています。それらの物質を動物が苦く感じるのです。一方、酸味については、食べものの腐敗や発酵が進むと、有機酸という物質が作られるので、酸っぱく感じるのです。酸味は、その食べものが腐敗している危険を表すサインなのです。

 動物にとって、苦味や酸味のある食べものをもともと嫌っていれば、それらを体に多量に取り込まずに済みます。これらの味を嫌う能力は、げっ歯類や人間の赤ちゃんを含む霊長類などの多数の動物種で見られます。両生類も、苦い餌を口にすると吐き出すことを、私どもの研究室に所属している大学院生が他大学の学部生時代に調べていました。

 動物の進化の過程で、苦味や酸味を避けるような能力を持つ動物が生き残り、その子孫が進化してきた結果、苦味や酸味を嫌う動物種が多く生息するようになったと考えられます。

──苦味や酸味以外の味についてはいかがですか?

八十島安伸氏。大阪大学大学院人間科学研究科行動生理学研究分野准教授。博士(人間科学)。大阪大学助手、福島県立医科大学講師などを経て、2007年10月より現職。専攻は行動神経科学。学習・記憶の脳機構や、味覚関連の食行動の脳制御機構などの解明に取り組んでいる。「日本味と匂学会 キリン研究奨励賞」「同学会 高砂研究奨励賞」などを受賞。

八十島 塩味は濃さが関わってきます。あまりに塩味が濃いと嫌な味になりますが、薄ければおいしくて好きな味になります。加えて、塩味をどう知覚するかは体の状態とも関係します。例えば、汗を大量にかいてナトリウムが体内から欠乏すると、普段なら受け付けないような濃い塩味さえおいしく感じるようになります。体の生理状態が味覚の好き嫌いにも影響するということを示しているわけです。

 また、甘味や旨味は、多くの動物にとって好きな味として知覚されています。

──食べものの味を、好き、嫌いと判断するのは体のどこの部分なのでしょう?

八十島 先天的な味覚への好き嫌いに関する能力は、脳幹にあると言われています。例えば、健常な赤ちゃんは苦味や酸味を口に入れると特有の顔面の表情を見せます。水頭症などで大脳が発達できていない新生児でも、健常の赤ちゃんと同様の表情を見せます。つまり、苦味や酸味に対する嫌悪的な顔面表情は、脳幹の機能によるものと言えます。

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1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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