(英エコノミスト誌 2014年7月5日号)

東アジアの歴史を巡る論争において、どの民主主義国家に加わるか。

 東アジアでは、歴史教科書は国家主義のバロメーターであり、歴史教科書を巡る議論は国家間の論争の代わりになるものだ。だから、折しも南シナ海と東シナ海のいたるところで領有権争いが勃発している時に、東アジア地域で歴史教育のあり方に関する長い議論の新たな章が始まったのも何ら驚くことではない。

 しかし今回は、いつもの布陣である日本と中国以外にも激論が波及している。そして、歴史教科書問題は国際的な意味合いに加え、国内的な性格を強く持つようになった。

新しい章の発端も日本

 今回のラウンドは日本で始まった。1945年の敗戦に至るまでの日本の帝政時代の侵略がずっと論争の起点となっている以上、そうなるのは必然だ。

 自民党は2012年12月の選挙のマニフェストで、教育に「愛国心」の価値観を取り戻すと約束し、現行の教科書を「自虐的な歴史観に基づく偏向的な記述」と呼んだ。多くの学者と教師はこれに懸念を抱いた。

 地滑り的な勝利を受け、安倍晋三首相は歴史解釈について合意がないところを明確にするために教科書を改訂する諮問機関を設置した。アジアの教科書戦争を研究しているスタンフォード大学のダニエル・スナイダー氏はこれを「日本の武力侵攻に対する言及を裏から制限する手法」だとしている。

 また、諮問機関は、日本の「近隣諸国条項」――歴史家が教科書を執筆する際に、近隣国(つまり中国と韓国)の心情に配慮するよう定めた一種の自己否定的な規則――を撤廃したいとも話している。教育に対する政治的支配を強めるために、政府は各学区に対する権限を市長に与えたいと考えており、ある学区に対しては、政府が選んだ教科書に切り替えるよう指示した。

 そのような行動は、往年の野心を実現するものだ。安倍氏は、日本の戦時中の残虐行為に関する歴史記述を制限することに何年も取り組んできた議員連盟に所属しているのだ。

日本の動きに猛反発する中国と韓国

 近隣国は予想通り、激しい怒りを示した。日本が尖閣諸島は日本の領土の一部だと教えることを提案した時には、(これらの諸島を釣魚島と呼んで領有権を主張し、日本の支配に異議を唱えている)中国は日本に「歴史的事実を尊重するよう」迫った(もっとも歴史的事実は中国の主張を裏付けていない)。

 また、日本が竹島は日本のものだと教えることを決めた時には、竹島を実効支配し、独島と呼んでいる韓国はこれを「憎しみを植え付け、紛争の種を播く間違った歴史観」と断じた。中国と韓国は、日本が近隣国条項を廃止しようとしていることに憤慨している。