(英エコノミスト誌 2014年7月5日号)

タイ経済は、国の政治問題を受け流すことはできない。

タイ軍政、W杯無料放送で国内に「幸福取り戻す」

プラユット・チャンオチャ将軍が率いる軍事政権は、発足以降、カネをばら撒いている〔AFPBB News

 タイの軍事政権が国民と良好な関係を築くための1つ目の教訓を見いだすのに、長い時間はかからなかった。迷った時はカネを使え、という教えだ。

 プラユット・チャンオチャ将軍が率いる軍事政権「国家平和秩序評議会(NCPO)」は、発足から1カ月の間、精力的に国庫のカネを放出してきた。

 NCPOは退陣に追い込まれたインラック・チナワット政権が導入した助成金制度に基づき、924億バーツ(28億ドル)近いカネをコメ農家に支払った。そして現在、720億ドルを超えると見られる大掛かりな交通輸送構想を検討中だ。

 NCPOは、タイ投資委員会(BOI)――プラユット氏は自らを委員長に任命した――の承認待ちとなっている210億ドルに上るプロジェクトの推進も約束した。6月18日に行われたクーデター後初のBOIの会議では、総額40億ドルに相当する18のプロジェクトが承認された。

 経済的ポピュリズムの上に成り立っていた政権を退陣させた後、NCPOは、時には真似ることも統治手法として悪くないと判断したようだ。NCPOはワールドカップ(W杯)の試合が無料のテレビ局で放映されるよう取り計らった。

 タイ国民はそれを好意的に受け止めているようだ。クーデター後の世論調査によれば、消費者信頼感指数は4月の67.8から5月には70.7に上昇し、13カ月連続の下落傾向が反転した。株式相場は軍が全権を掌握した翌日の5月23日に下落したものの、その後は着実に上昇してきた。7月1日にはSET指数が1486をつけ、年初来17%近く上昇していた。タイの通貨バーツも同様に、クーデター後の短期的な下げから反発に転じた。

観光業に大きな影響、外国からの直接投資にも陰り

 だが、万事順調とは到底言えない。2014年の第1四半期にタイの国内総生産(GDP)は前四半期比で2.1%、前年同期比で0.6%減となった。経済のおよそ7%を構成する観光産業は著しく落ち込んだ。データ提供会社STRグローバルによれば、今年1~5月期のホテルの客室稼働率は2013年同期より15%低かった。6月にはタイ中央銀行が2014年の経済成長予想をほぼ半分の1.5%まで引き下げた。

 外国直接投資(FDI)の投資家も弱気のようだ。こうした投資家は2014年1~5月期に、総額2300億バーツ相当の334件のプロジェクトをBOIに申請した。これに対し、2013年同期には、2560億バーツ相当、526件のプロジェクトの申請があった。通常、申請が最も多い日本の投資家は特に慎重で、申請額が半分以下に減った。