(英エコノミスト誌 2014年7月5日号)

ロシアは事実上、既にウクライナ東部に侵攻している。問題は欧米がどう対応するかだ。

ウクライナ軍、親ロシア派拠点のスリャビャンスクを奪還

ウクライナ軍と親ロシア派武装勢力の戦闘でウクライナ東部は荒廃している〔AFPBB News

 作家のナタン・ドゥボビツキー氏の説明によると、今はまだそうではないとしても、将来の国家間の戦争は、「非線形戦争」という戦い方になる可能性が高いという。非線形戦争では、個々の地域や都市が一時的に同盟を組むが、戦っている最中に同盟を解消して新しい相手と同盟と組む、といった様相を呈する。

 各勢力は独自の目的を持つが、それらの目的も流動的だったりする。この種の戦争は多くの要素から成り立っており、戦闘はその要素の1つに過ぎない。ドゥボビツキー氏の小説には、「大多数の人は、この戦争が何らかのプロセスの一部であるが、必ずしもそのプロセスの最重要部分とは限らないことを理解していた」との記述がある。

戦争はプロセスの一部

 ドゥボビツキー氏の考え方が端的に示されているこの短編小説は、ロシア軍がクリミアの支配権を掌握した今年3月に発表された。この小説に関する詳細情報のうち、最も意義深いのは、著者の正体だ。ドゥボビツキーのペンネームでこの小説を書いたのは、長年にわたりロシアのウラジーミル・プーチン大統領のイデオロギー面での顧問を務めたウラジスラフ・スルコフ氏なのだ。

 スルコフ氏の小説は架空の演習だが、ロシア政府がウクライナ東部で遂行する戦争の道筋を示す青写真としても、これ以上のものはない。

 無視されることも多かった10日間の停戦期限が切れた7月1日、ウクライナ東部で激しい戦闘が再開された。ウクライナ政府側と親ロシア派の双方に多数の死者が出ている。ウクライナ政府軍は、市街地も含め、激しい砲撃を再開した。政府軍は、ロシア国境の検問所を奪還したと主張している。これは、親ロシア派の反政府組織を包囲して、徐々に消耗させるために必要な措置だ。

 ウクライナのペトロ・ポロシェンコ大統領は6月末、プーチン大統領が本心を隠して執拗に求めている一時停戦の延長に応じないよう強い圧力を受けてきた。キエフで勢いを増すナショナリストの団体が、戦闘を続けるよう圧力を掛けてきた。反政府武装勢力側が停戦を断続的にしか守らなかったり、全く守らなかったりしたことから、ポロシェンコ大統領は、今回の紛争では反政府側のみが停戦の恩恵を被っていると判断したのかもしれない。

 一方プーチン大統領は、少なくとも今のところ、全面侵攻は行わないという姿勢を見せた。6月24日、同大統領は、常に自分に忠実なロシア議会上院に、3月初めに自らが命じたウクライナへの派兵許可を無効にするよう、わざとらしく要請したのだ。

 ポロシェンコ大統領から見れば、この動きは総じて内実の伴わないごまかしであり、欧米の制裁をかわす手段の1つに過ぎない。しかし、戦車と兵士による侵攻の可能性は低そうだとしても、ロシアの侵攻はずっと前から別の形で始まっていた。それは、スルコフ氏が描く、つかみ所のないポストモダン型戦争にごく近いものだ。