毎週水曜日の夕方、丹那盆地から熱海峠を越えて自然農法で育った野菜たちがスナメリ食堂にやって来る。

丹那盆地から届く自然農法で育った野菜たち(著者撮影、以下同)

 野菜とともに、畑の近くに咲いていたという野の花や野菜の花が添えられていることも。お花屋さんで売っているものより素朴で力強く、お店に飾ってはお客さんとの話題作りに一役買ってもらっている。

 時に花束を添えて野菜の配達に現れる心優しき農夫、吉澤偉さん。

 夏の暑い日も北風の冷たい日も変わることなく飄々とやって来る、彼の育てる野菜たちもまたなんともおおらかで、スナメリ食堂のメニューに彩りを添えてくれている。

熱海の隣町、函南町丹那で始めた「農的暮らし」

 千葉県銚子で育った吉澤さんが函南町丹那に移住したのは1992年。高校時代、技術の先生から食品添加物の話を聞いたことが食や農業に関心を持つきっかけだったという。が、農業を生業とするようになったのは今年で6年目。

丹那の山あいの畑に立つ吉澤さん

 それまでは農産加工会社でのジャムの製造、地元新聞社の記者などの仕事をしながら、熱海駅から車で約30分と東京へのアクセスも良く、箱根山麓の自然に囲まれた静かな環境も得られる丹那盆地で、自分たちが食べる分の野菜を作りながら彼なりの農的暮らしを築いてきた。

 「全国各地をまわって、本当に何もないような田舎で農業をしないか? と声をかけてもらったこともあったけれど、都市型のライフスタイルも完全には捨てきれなかったんだ。たまには街に出て映画も観たいしね」