梅雨の湿った空気を吹き飛ばすように300人を収容する会場は熱気で溢れていた。

 2014年6月9日の午後。「セルロースナノファイバーは無限の可能性を持っている。日本の豊かな森林資源を活用するためにも、国家的プロジェクトとして取り組みたい」。ナノセルロースフォーラムの設立総会が、来賓として出席した松島みどり・経済産業副大臣の力強い祝辞から始まった。

植物の繊維から鋼鉄より軽くて強い素材が生まれる

図1 木材細胞壁中のセルロースナノファイバー(京都大学・粟野博士提供)

 セルロースナノファイバーは、鋼鉄の5分の1の軽さで、その7〜8倍の強度を有する幅4〜20nm(ナノメートル)のナノ繊維である(図1)。

 線熱膨張はガラスの50分の1。石英ガラスに匹敵する。こう書くと極めて特殊な繊維のように思われるが、この地球上に1兆8000億トンあると言われている木質バイオマス資源の約半分を占める、とても身近な素材である。

 木材や竹といった植物の細胞はセルロースナノファイバーが鉄筋となりリグニンがコンクリートの役割を果たしている。そのコンクリートを取り除いて、細胞一つひとつに解したものが、コピー紙の原料となるパルプである。

 我が国では、年間2000万トン近い紙用パルプが流通しているが、それらはすべてセルロースナノファイバーの集合体である。

 電子顕微鏡の開発によってナノの世界を見ることができるようになると、植物細胞壁が均一な結晶性のナノ繊維でできていることが知られるようになった。

 京都大学の桜田グループによるX線解析からは結晶弾性率は鋼鉄の3分の2の140GPa(ギガパスカル)と見積もられた。カナダ・紙パルプ研究所のペイジ(Page)氏は、パルプを1本引っ張って1.7GPaの強度(自動車用鋼板の5倍)があることを30年も前に報告している。

 同じ時期に、楽器用木材の研究では、細胞壁中におけるセルロースナノファイバーの配列(配向)が、用材としての好適を決めていることが報告されている。

 しかしながら、それを木質バイオマスから抽出し、ナノ繊維として利用するという研究が盛んになったのはナノテクノロジーが言われ出した2000年代に入ってからである。ナノ素材としての研究の歴史は、まだ10年ほどと言ってよい。