青年は、あれから1週間後の同じ時間に、靖国神社の鳥居に向かって歩いていた。出不精の青年にしては珍しいことだ。

 先週、あの老人、南海先生の言ったことがどうにも理解できなかった。どうして、米国が中国の横暴を許して、日中が衝突したら尖閣諸島を中国に譲らせたりすることになるのか。中国が日本を核攻撃すると脅した時に、どうして米国は日本を守らないのか、分からない。

 南海先生は、その根底に、「米中経済同盟」があると言った。日米同盟の間違いではないのか。その点を問い詰めてみたい。大体、中国の青年も米中経済同盟など存在しないと言っているではないか。

 鳥居の下には、南海先生と中国青年が待っていた。

愚者は経験に学び、智者は歴史に学ぶ

南海先生 老人を待たせるとは失敬な奴だな。まあ、来ただけまし、ということか。わしも、若い者に甘くなったものよ。ところで君は、「愚者は経験に学び、智者は歴史に学ぶ」というビスマルクの言葉を知っておるか。

 歴史に学ばない国民は、敗戦や国家崩壊という痛い経験をせざるを得ないぞという警告だ。山崎養世さんの言う米中経済同盟という代物も歴史の産物なのだ(山崎養世『米中経済同盟を知らない日本人』(徳間書店)ご参照)。

 だが、お前たち日本の若い者は、毛沢東どころか、鄧小平のことも知らんだろう。しかし、今の中国は、彼らによって作られたのだ。その歴史を理解しなければ、お前たち日中の青年にとって、お金どころか命に関わると言えば少しは真剣に聞くか。

日本青年 聞きますよ。米中経済同盟なんて、一体何の話なのか、それを聞きたくて来たんですから。

中国青年 私もそれを知りたくて、こうして靖国神社にまで参りました。ぜひ歴史の話を聞かせてください。

南海先生 よし。お前たちが生まれる前じゃが、1980年代の米国は、日本が世界一の経済大国の座を奪うのではないかと本気で警戒していた。1979年に「ジャパン・アズ・ナンバーワン」というハーバード大学のエズラ・ヴォーゲル教授の本が出たこともそうした警戒感を助長したものだ。