Markthalleというのは何と訳せばいいのだろう。Marktは市場でHalleはホール。ようするに屋内市場であるが、シュトゥットガルトのそれが、今年、開設100周年を迎える(参考:Markthalleのウェブサイト「Die Markthalle」「Galerie」)。

シュトゥットガルトで最高の食料品が揃う屋内市場

シュトゥットガルトの屋内市場外観(ウィキペディアより)

 シュトゥットガルトの屋内市場は町の真ん中にあり、外見も中身もどっしりと由緒正しい。何が由緒正しいかというと、まず外見は、新古典主義。しかも、古めかしくて堂々としているだけでなく、いろいろな細工がある。

 100年前、市場の西側の地域は、裕福な市民の瀟洒な邸が並んでいた。その町並みに合わせるように、市場の建物の西側の壁は、簡素でそれほど目立たないスタイル。

 一方、市場の東側にはバロック様式の旧宮殿をはじめとした王家の公的な建物が集中していたため、その重厚な雰囲気に合わせて、大きなアーチ形の門が設えてあったり、外壁が壁画や彫刻で飾られてあったりと、何かと華やかだ。

 つまり、建物の表と裏の雰囲気が違う。建物の角にある塔の姿も、その方向に見える建物にマッチさせてある。しかし、全体では調和が取れていて、しかも風格がある。中身のほうはそのものずばり、シュトゥットガルトで手に入る最高の食料品が由緒正しく並んでいる。

 ただ、東京の高級デパートの地下食料品街のように気取った雰囲気はない。ドイツ人とは、ハイテクが好きな割には生活面では変化を好まず、新しい物には常に懐疑的な国民だが、ここの市場の趣にもそれが如実に表れている。

 重い鉄の扉を開けて、市場に一歩足を踏み入れると、目に飛び込んでくる風景は近代的とは言い難い。昔ながらのたたずまいの中で、まさに農家の親父さん、おかみさん風の人たちが高級品を売っている。この素朴さは、100年前とそれほど変わらないのではないか。皆、地面にしっかり根っこが生えているような逞しさだ。

 市場には38店舗が入っているが、その多くが家族経営で、親の代から引き継いで長々とやっているケースも珍しくない。

 そんな中に1軒だけ、比較的新しく参入した有名な高級イタリア食料品店があるのだが、素朴な風景の中で、その店だけが完全に浮いてしまっている。土曜の午後の一番混む時間には、ブランド品に身を包んだセレブたちが群がり、その一角だけ独特な雰囲気が漂う。