(英エコノミスト誌 2014年5月3日号)

世界の秩序は、ぬぐい去れない疑惑に蝕まれつつある。超大国はその疑いをほとんど無視している。

米国のハクトウワシに対抗を、カナダで白熱する国鳥選び

米国の「戦う意志」が問われている〔AFPBB News

 「誰もがこれほど軍事力を行使したがるのはなぜか?」 米国のバラク・オバマ大統領は理性的な人物だが、4月28日にアジアで、自国の「弱腰」を巡る問題について語った時は、こう言ってめずらしく苛立ちを垣間見せた。

 オバマ大統領によれば、政権は地味ではあるが着実に前進しているという。政権を批判する者たちが言うようにすれば、うっかり戦争に足を踏み入れることになり、米国に害を及ぼすだけだと大統領は述べた。

 オバマ大統領の発言は、米国民の間に広まる風潮を反映するものだ。イラクとアフガニスタンで血と財産が無駄に費やされたせいで、米国民は疲れ果てている。ピュー・リサーチ・センターが2013年秋に実施した調査では、米国は「国際的に、他国の問題に干渉すべきではない」と考える人が52%に上り、過去50年の調査で最高を記録した。

 だが、米国大統領が「しかるべき警戒」について語る時、世界はためらいを感じとっている。とりわけ、超大国にとって最も根本的な問題である「戦う意志」という点で、後ろ向きに感じられる。

 特に無防備な状態に置かれている米国の同盟国は、いまや米国の戦う意志に疑いを抱いている。日本の外交政策は何十年にもわたり、米国の安全保障に支えられてきた。だが今では、アジアを歴訪したオバマ大統領が、問題の尖閣諸島(中国名: 釣魚島)を中国が攻撃した場合には米国を頼りにしていいと、日本にわざわざ念を押さなければならない状況になっている。

 リビアやマリでは及び腰で介入を支持し、シリアでは一度は公言した軍事介入を撤回したせいで、イスラエルやサウジアラビアなどの湾岸諸国は、米国に中東の治安を維持する意志があるかどうか、疑問に思っている。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領がウクライナを混乱させている今、東欧諸国は次は我が身かと気をもんでいる。

 いずれの問題も状況はそれぞれ異なるが、国際政治という共鳴空間の中では、それぞれの出来事が互いの印象を強め合う。

 アジア諸国は、ウクライナが1994年に核兵器の放棄と引き換えにロシアと米国、英国から国境に関する保証を取り付けたことを心に留めている。バルト3国は、シリアで「レッドライン(越えてはならない一線)」が越えられたことを覚えている。アラブの王族と中国の大使たちは、米国共和党の孤立主義を信奉する上院議員の数を数えている。

 こうした後退が重なった結果、「米国は肝心な時に姿を現さないかもしれない」という抜き差し難い疑念が、敵にも味方にも植えつけられている。

毒の根源

 確かに、戦争の抑止いう考え方には、常に疑いの要素がつきまとう。米国大統領が自国の領土を守ることは間違いない。また、米国がウクライナを巡ってロシアと戦争することがないのも確かだ。その2つの間には、無限の可能性の組み合わせが存在する。個々の事態の進展次第で、状況は大きく変わってくる。

 だが、その中間の領域で、疑いが急速に広がっている。その疑念が、世界をこれまでよりも危険で不安定な場所にする恐れがある。