「お話をうかがっていると、佐川さんのお子さんたちは学習意欲がとても旺盛なようですが、子育てで特に気をつけたことはありますか?」

 講演会で質問に立った女性から聞かれて、「失礼ですが、お子さんはおいくつですか?」と私は聞き返した。

 「0歳6カ月と、3歳です。どちらも男の子です」

 そんなに小さいとは思っていなかったので、私は束の間呆然とした。そして、この会場には保育室があって、6人までは幼児を預かれるとチラシに記載されていたのを思い出した。

 あらためて女性に目をやると、年齢は30歳前後で、胸が大きく張っているのはまだ母乳をあげているからなのだろう。いかにもお母さんらしい体型に、私は自然と顔がほころんだ。

 「さっき申しあげた通り、ウチの息子たちは18歳と10歳です。これといって特別な教育はしてこなかったつもりですが、私は家庭では主夫ですから、とにかく子どもと一緒の時間を過ごしてきました」

 そう前置きしながら、私はこのあとをどう続けようか考えていた。それというのも、その日の講演のタイトルが「働くこと、生きること」で、私はかつて携わった家畜の解体作業について話していたからだ。ところが、2児の母親である女性は、私が講演の合間に触れた、わが家の子どもたちの様子の方に興味を引かれたらしい。聴衆は60人ほどで、子育て論に移ってもかまわないという雰囲気だった。

 「これもさっき申しあげましたが、私の妻は小学校の教員をしています。昨今の教員の忙しさはまさに殺人的で、平日の帰宅は午後7時を過ぎますし、休みであるはずの土曜日や日曜日も終日教材研究や丸つけに追われています。ですから、常に男親である私が息子たちの相手をしてきました。それでよく育ったものだと思っていますが、中でも上の子どもから感謝されている出来事がありまして、ご質問への答えになるかどうか分かりませんが、そのことについて話したいと思います」

 そう断ってから、私は以下のことを話した。

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 11月生まれの長男は、誕生から1年5カ月目になる4月1日に市立保育園に入園した。午前8時半~午後4時という比較的短い保育時間で、送り迎えや帰宅後の相手は私が務めた。身体は小さめだが、1歳になる前からはっきりした言葉を話し、とことこ歩くという発育の早い子どもだった。