(英エコノミスト誌 2014年4月26日号)

アンゲラ・メルケル氏は近隣諸国に成長志向の改革を説いているが、自国では成長を抑制する政策を実施している。

 アンゲラ・メルケル首相には、問題を抱えたユーロ圏諸国に捧げるお気に入りの持論がある。ドイツを真似ればいい、というものだ。昨年の秋には「我々がやったことは、誰にでもできる」と述べた。

 首相の分析に従えば、今から15年前、ドイツは欧州の病人として広く認識されていたが、その後、財政緊縮に踏み切り、人件費を削減、構造改革を受け入れ、ドイツを力強い経済大国に変えた、というわけだ。

 ドイツとユーロ圏南部の国々との格差は確かに大きい。ドイツ経済は、南欧の大半の国より速いスピードで成長を遂げている。ドイツの若年失業率が20年ぶりの低水準で推移しているのに対し、スペインとギリシャのそれは依然として記録的な高さだ。また、フランス、イタリア、スペインがブリュッセルで決定された財政赤字削減目標を達成するのに苦労する一方、ドイツは財政黒字を出している。

ドイツの復活はシュレーダー前首相の改革の賜物

 財政的な慎重さに関して言えば、メルケル氏は手本だ。実際、本誌(英エコノミスト)は、メルケル氏が少し緊縮の手を緩め、欧州の需要を喚起するために支出を増やしてくれた方がいいと考えている。だが、構造改革に関しては、同氏の実績は芳しくない。ドイツの復活は実際、メルケル氏の前任者であるゲアハルト・シュレーダー氏が2003年に開始した改革「アジェンダ2010」の賜物だ。

 それ以降、メルケル氏はいくつか目立つ成果を上げた――在任1期目には果敢に通常の退職年齢を67歳に引き上げた――ものの、金融危機勃発以降の改革の観点から見ると、ドイツは経済協力開発機構(OECD)のランキングで加盟国34カ国中28位に甘んじている。

 これに対しては、ドイツ国民には明白な反論がある。南欧の人たちは、追い付く余地が非常に大きかったということだ。それほど簡単に説明できないのは、メルケル氏の率いる「大連立」政権が現在、実際に後退していて、ドイツ企業の負担を増大させているという事実である。

 3つの実例がそのトレンドを浮き彫りにしている。年金に関しては、政府は引き続き退職年齢を引き上げるのではなく、特定の労働者の退職年齢を63歳、さらに極端なケースでは61歳まで引き下げている。第2に、政府は全国的な最低賃金を導入するに当たり、比較的高い水準を設定した。これは特にドイツ東部で失業を生むと見られている。

 そして最後に、メルケル氏が掲げる「エネルギーヴェンデ(エネルギー大転換)」は、再生可能エネルギーに莫大な助成金を費やしているだけでなく、ドイツ企業に米国の3倍近くの電気料金の負担を強いている。