2014年の夏、大阪は例年以上に大勢の観光客で賑わいそうだ。7月15日にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市此花区)で、映画「ハリー・ポッター」のテーマパーク「The Wizarding World of Harry Potter(ハリー・ポッターの魔法の世界)」がオープンするからだ。

USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(角川書店、1400円、税別)

 ハリー・ポッターのテーマパークは、アメリカの「ユニバーサル・オーランド・リゾート」で2010年にオープンし、大きな人気を博している。USJに建てられるのはその第2号となる。総工費は約450億円。日本国内のみならず海外からも大勢の観光客の来場が見込まれ、関西の経済界も大きな期待を寄せている。

 オープンを待ちわびる雰囲気が盛り上がる中、『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』(角川書店)という本が出版された。著者はUSJのCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、執行役員の森岡毅さんだ。

 森岡さんはUSJの業績をV字回復させた立役者である。USJは2001年にハリウッド映画のテーマパークとして開業した。開業直後の年こそ1100万人の入場者を達成したが、翌年から客足はどんどん衰え、2009年度には700万人台にまで落ち込んでしまう。そこで、集客を取り戻すべく白羽の矢を立てられたのが、P&Gのマーケティング部門で辣腕を振るっていた森岡さんだった。

 森岡さんは2010年5月にマーケティングの統括責任者として着任すると、USJが入場者を増やし、長期的な成長を遂げるための戦略を立案し、実行に移していく。

子ども連れのファミリー層が楽しめるエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」

 まず、集客の大きな柱の1つが、小さな子ども連れファミリーが楽しめるファミリーエリア「ユニバーサル・ワンダーランド」の建設である。USJはもともと映画のテーマパークとしてオープンしたため、ファミリー層の集客をおろそかにしていた。森岡さんは、「テーマパーク事業の最大のボリュームゾーンであるファミリー層を呼び込めないことには、USJの将来はない」と考えた。そこで立案したのが、ユニバーサル・ワンダーランドの開発・建設である。

 そして、もう1つの大きな柱が、すでに米国で人気を集め、高い評価を得ているハリー・ポッターのテーマパークの誘致だった。森岡さんは、3年分のほぼすべての設備投資予算をこの2つの計画に集中し、それ以外の設備投資は低コストのアイデアで乗り切っていく、という大胆なプランを打ち立てた。

 後ろ向きに走るジェットコースター、世界一の光のツリー、パーク内をゾンビで埋め尽くすアトラクション・・・。本書には、逆境の中で森岡さんがどのようにアイデアをひねり出し、どうやって様々な障害を乗り越えて突き進んだのかが、本人の手によって綴られている。