私たちが開発した「高バイオマス量サトウキビ」は、還元糖を多く含んでいて、バイオエタノールの生産には適していますが、砂糖の回収率が低くなるため、製糖工場からは歓迎されません。サトウキビの品種改良は、我々だけでなく、世界中で取り組んできているのですが、還元糖問題が壁となって、なかなか根本的な問題解決にはならなかったのです。
― 生産順序を逆転させると、どうして問題を解決できるのですか?
野村 「まず砂糖を取り出し、その残りを発酵させてアルコールを作る」というブロセスが世界共通で行われてきたのには理由があります。
従来、使われてきた酵母はショ糖と還元糖の両方を分解してエタノールに変えてしまう性質があります。このため、先にエタノールを作ろうとすると、ショ糖をも分解し尽くしてしまい、砂糖が回収できなくなってしまうのです。
「還元糖」だけをエタノールに変え、「ショ糖」を分解しない特殊な酵母を使えば、還元糖を多く含む多収性のサトウキビで効率よくバイオエタノールを生産できます。さらに、残ったジュースには砂糖の結晶化を阻害する還元糖が含まれないので、効率よく砂糖ができます。まだ研究段階ですが、砂糖の品質の向上にも繋がるのではないかと期待しています。

― そんな酵母が存在していたのですか?
野村 世界の酵母バンクから根気よく探し、我々の目的に合わせて育種(品種改良)しました。「サトウキビジュースから砂糖を取り出し、残った糖蜜を発酵させてアルコールにする」というプロセスが“当たり前の常識”として定着していたので、これまでは、生産プロセスを逆転させようとか、ショ糖を食べない酵母を探そうなどとほとんどの人は考えなかったのではないでしょうか。
この技術、バイオエタノール生産が効率よくできることに加え、通常の製糖にも大きなメリットを生む可能性があります。サトウキビのライフサイクルで見ると、成長期の夏場はショ糖が少なく還元糖を多く含み、秋以降の成熟期になると還元糖が減少し、ショ糖を溜め込む性質があります。
このため、製糖工場は砂糖の回収率が悪い夏場は休業し、冬だけ稼働というところも少なくありません。沖縄では年間100日しか稼働しない製糖工場もあります。しかし、製糖の邪魔になる還元糖だけを分解する酵母を使えば、還元糖を多く含む夏場の時期も工場を稼働させることができるようになるかもしれません。
― 逆転生産プロセスの実用化はこれからですか?
野村 現在は開発した技術を製糖工場に導入して、継続的に逆転生産を実施するための技術開発の研究を進めています。
日本では九州の一部と沖縄など限られた地域でしかサトウキビを生産していませんが、ブラジルやインドなどサトウキビの大生産地にも普及できる可能性もあります。
2013年にサトウキビの国際学会でアサヒグループとして逆転生産プロセスについて発表したところ、複数の国が興味を示し、問い合わせも相次いでいます。2015年の実用化が目標です。
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