(英エコノミスト誌 2014年3月29日号)

日本の職場における女性の低い地位は数十年間にわたりほとんど改善されず、その結果、国が苦しんでいる。安倍晋三氏はこの現状を変えたいと思っている。

 カワバタ・カレンさんは、日本最高の知的資本の代表格だ。日本一の名門大学、東京大学を卒業したばかり。皮肉屋で落ち着いた雰囲気のカワバタさんは米国人の母親と日本人の父親を持ち、日本企業が近年特に重視している、語学力と国際人としての態度を備えている。4月にはコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーに入社し、即座に世界を駆け巡るエリートの仲間入りを果たす。

 しかし、カワバタさんには、行く手の障害物が見えている。彼女は、この先、伝統的な日本企業に転職することになった場合に自分が直面する困難を強く認識している。勤務時間は猛烈に長く、深夜を越えることもしばしばで、その後には「飲みニケーション」(日本語の「(酒を)飲む」という言葉と、英語の「コミュニケーション」を組み合わせた造語)がある。

 そうした酒の席は、意欲的な若者が人脈と評判を築く場だ。カワバタさんによると、最近では、上司に好印象を与えようとする女性は、ビールの代わりに梅酒と大量の炭酸水を混ぜたカクテルを飲むことが許されているという。だが、それは大きな進歩とはとても言えない。

 何にも増してカワバタさんは、家庭を持つことと、要求が厳しいキャリアとの両立は不可能に近いと心配している。今年、恋人の父親と初めて会った時、マッキンゼーで働く意思について父親を安心させた。「数年経ったら自分のキャリアについて考え直すと言ったんです」

 安倍晋三首相は、日本で最も優秀な大卒者の1人がそんなことを言わざるを得ないことを憂うはずだ。日本は世界のほぼすべての国と比べ、高い水準の教育を女性に与える。経済協力開発機構(OECD)がまとめている教育ランキングでは、日本人女性はトップ付近につける。しかし、経済に関して言えば、日本の女性は大学を卒業する時に、その将来性が無駄になることが多い。

 女性の労働参加率は63%で、他の先進国よりはるかに低い。働く女性は第1子を出産すると、7割の人がその後10年以上働かない(米国では、その割合は3割)。この7割の人のかなり多くが二度と働かない。

雛祭りの枠を超えて

安倍首相、「アジアでの軍拡」に警告 中国をけん制

安倍首相はダボス会議の基調講演でも女性の活用について触れた〔AFPBB News

 安倍氏はこの状態を変えたいと話している。首相は2013年4月、日本経済で女性が「輝ける」ようにすることが、「アベノミクス」の成長戦略の最重要課題であると述べた。

 投資銀行のゴールドマン・サックスによると、女性の労働参加率を男性と同じ水準まで引き上げれば、減少している日本の労働人口を800万人増やし、国内総生産(GDP)を最大で15%拡大させる可能性があるという。

 高い報酬を得て働く女性が増えれば、需要も増える。それゆえ安倍氏は演説で、保育所の開所時間の延長や自宅以外で授乳をする難しさといった問題に重点を置くようになっているわけだ。

 保守派の自民党に所属する安倍首相にとっては、これはかなり大きな方向転換だ。2005年、前の政権がさらなる男女平等に向けて対策を講じていた時、安倍氏をはじめとする保守派は、男性と女性が同等に扱われたら、家族の価値観や日本文化に悪影響を及ぼすと警告していた。彼らは、年に1度の女の子の祝祭であり結婚生活の威儀でもある雛祭りのような儀式の存続が危ぶまれると心配した。

 彼らの懸念は伝統だけに基づいていたわけではない。保守派の考えでは、女性を労働力から除外しておくことは、経済的にも理にかなっていた。自民党出身の元厚生労働相が言ったように、日本の「子供を産む機械」が家庭にとどまれば、より多くの赤ん坊、ひいてはより多くの労働者を生むというのだ。